一級建築士の甘い囁き~ツインソウルはお前だけ~妊娠・出産編
「児頭が見えてきたよ。さあ、佐和山さん、イキんで」

片方は頭上のバー、右手は海音の手をギュッと握り、萌音は力の限りイキんだ。

しかし、思うように力が入らない。

その度に、海音が優しく頭を撫で、右手をギュッと握ってくれる。

海音の泣きそうな瞳が、逆に萌音の心を強くしてくれた。

帝王切開ではなく、自然分娩になったからこその思わぬ贈り物。

無事に産まれて欲しい。

その思いは、萌音だけでなく海音も同じだったはずだ。

産みの苦しみを経験できなくても、こうして側にいて萌音の痛みを共有してくれる。

出産に興味を示さず、見たくもないという夫もいる中、萌音は幸せな妻だと思った。

「ほら、もうすぐだよ。そうそう。上手だね。よし、もう一踏ん張り・・・」

下の状況を伝えてくれる森久保先生の実況はありがたいが、腰もお腹も陰部も割れそうに痛くてどうにかなりそうだった。

気が遠くなりそうな萌音を引き留めたのは、元気だけど儚くて、想像以上にず太い泣き声だった。

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