先輩の彼女
間野さんも私を見たから、視線が合った。

「後でタクシー代も、絹花から貰おうか。」

なんだかそれが可笑しくて、二人で久々に笑ってしまった。


辛かった気持ちが、一緒にいるだけで、幸せな気持ちになる。

悲しかった気持ちが、傍にいるだけで、楽しい気持ちになる。

恋って、そういう気持ちなんだと、改めて実感した。


「なあ。」

「はい?」

「絹花は、俺の悪口、散々言ってただろ。」

私から笑顔が消えた。


絹花がいなくなっても、絹花の話になる。

そこに私の存在は、ない。


「いえ。絹花はただ、私の仕事の愚痴を、聞いてましたよ。」

「嘘つくな。最近、会うといつもケンカするんだ。飲みに行って、文句を言わない訳がない。」

涙が出そうになった。

何でそんなに、絹花の事を庇うの?

彼女だから?

そんなに、好きなの?


絹花のこと……

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