先輩の彼女
程なくなして、タクシーは私の部屋があるマンションの前に、停まった。

「タクシー代……」

私が、財布を取り出した時だ。

「いい。俺が出すから。」

間野さんは私の手ごと、バッグの中に、財布を押し込んだ。

一瞬だけど、間野さんの温もりが、私の手に伝わってきた。

「有り難うございます。」

私は小さい声で、そう言うのが精一杯で、急いでタクシーから降りた。

「今日は、ちゃんと鍵あるか?」

「は……」


もう少し、間野さんと一緒にいたい。

咄嗟に、カバンの中を探した。

「あれ?」

ない振りをしたのは、少しでも間野さんを、引き止めたいからだった。

「まったく。運転手さん、一旦清算して下さい。」

「えっ?」

まずい。

本当は鍵があったなんて、知られたら!

「あの!私自分で探しますから!」

「もう、清算終わったよ。」

間野さんは、タクシーを降りてしまった。
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