先輩の彼女
「ごめんごめん。遅くなって。」

間野さんは、絹花に手を挙げた瞬間、私の存在に気づいてしまった。

「早く早く!」

「ああ……」

絹花に手招きされて、間野さんは彼女の隣の席に座った。


「ビールでいい?」

「ああ、うん。」

「すみません。こちらの人にビール!」

絹花は、彼氏のビールを、嬉しそうに頼んでいる。

一方の私は、意気消沈。

絹花の彼氏が間野さんだなんて、なにかの間違いであってほしい。


「紹介するね。こちら……」

「斎藤久実さん、だろ?」

「えっ?知ってるの?裕一。」

「知ってるも何も、同じ営業部だって。」

すると絹花は、間野さんに顔を近づけた。

「同じ営業部だって、顔まで知ってるの?」

「大抵そんなモノだよ。どこの会社も。」

スタジオで働いている絹花は、名前だけ知っているけれど、実際顔は知らない人が、ウジャウジャいるそうだ。
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