涙とキスと隣の泣き虫
向こう側の校舎で生徒達の賑わう声が耳に入るのに、私とリキの間に沈黙だけが流れる。
もう一度、同じ台詞を繰り返そうと思ったところで、未だに私に視線をうつすことのないリキが口を開いた。
「な、涙が浮かんでくると、思い出すから……」
「何を?」
「……」
「ハナちゃんの顔」
「はぁ?何で私の顔思い出すと泣けないのよ?」
「あ、あの……時の。ハ、ハナちゃんの顔が頭に浮かんで」
「……」
「ホ、ホッペとか赤くて凄く、か、可愛くて」
「……」
「ハナちゃんの柔らかい唇とか」
「……」
「白くてスベスベしてる肌とか思い出して」
なんて話を聞かされたら、私は唖然とするしか無い。
妙に悩まし気に息を吐くリキ本人は、顔を膝に埋めていて、きっとその頬は真っ赤なんだろうなと容易に想像ついた。