涙とキスと隣の泣き虫



旧音楽室のドアの前でしゃがみ込むリキの頭の上から顔を出す。
そっと覗いたドアの向こう側には、ピアノの前に制服姿の女の子がの姿が目に入った。

椅子に座ってるのに小柄なのが一目で分かる。
長く伸ばされた真っ黒な髪の毛に、制服のシャツからは細い腕が伸ばされて、まるで守ってあげたくなるような清楚で私とは真逆な子。



あれ?前にどこかで会った事があるような。
と思ったところで、すぐに先輩のクラスの人だという事を思い出す。




「リキ…私、あの人知って……」

"知ってる!"そう言おうとして、座り込むリキに視線を落とせば、一瞬にして理解が出来た。

リキの頬は熟したりんごの様に赤く染まり、純粋な瞳は真っ直ぐに彼女だけに向けられている。
すぐ傍にいる私の存在なんて、全く視界に入っていない。



ーーあぁ、こういうのが恋してる顔なのか。



リキとは小学生の頃からの付き合いなのに、知らなかった。

リキでもこんな色惚けた顔するんだ。


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