涙とキスと隣の泣き虫
「花田ー!」
相変わらずリキが泣いて呼び出される日常も変わらないし、あの柔らかい唇にキスを落とす事に何の躊躇いもないのだけど。
「まーた、そんな事で泣いて」
「だって…」
「先輩に笑われちゃうぞー」
「……ッ」
あんなに泣き虫だったリキが、涙をぐっとこらえる姿もちょっと見物だったりする。
だけど旧校舎で2人の姿は──。
「ほら、そこ」
「え?」
「上がった後はすぐ下がるんだよ」
「あ…」
音楽室の壁に寄りかかる私の耳に入るのは、穏やかでゆっくりで優しい音色。
意外といい感じにうつって見える。
「急がなくてもいいんだよ」
「うん」
「1つずつゆっくり…」
「うん」
リキは教え方だけは上手いから、私なんかいなくてもうまくやってけいる。リキにはああいう小さくて優しそうな先輩が似合ってる。
私は両手で頬をむにゅっと上へ上げて、ゆっくりと目を閉じた。