涙とキスと隣の泣き虫



柔らかい唇をなぞる様にキスをすれば、リキの肩はおびえる様に上下に揺れる。



「ハッ、ハナッ、ちゃ……」


ビクッと小動物の様に震えて、まるであの時のウサギみたいだ。





──フェンスがやぶられて、犬に襲われてしまいました


白くて、ふわふわして、可愛かったな。

追いかければ逃げて。

抱っこすれば全身が小刻みに震えて。

でも、餌をあげればキュンキュンと鼻を鳴らしてやってくる。


昔、クラスで飼っていたウサギは呆気なく死んでしまった。

その知らせを先生がした時、クラスで最初に泣いたのはリキだったんだっけ。


ぼんやりと昔の記憶が頭に浮かんで、目の前に意識を戻した。




いつもならすぐ止まるのに、私の前にいるリキの瞳からはまだ涙が零れ落ちる。


真っ赤な瞳が私に不安を訴えていた──。


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