その手を離さないで。
赤木くんの視線が痛いほど伝わる。
七瀬って意外と髪長いんだな。ー
まつ毛長いんだな、それにくりんってしてる。ー
耳は小さいし、ピアスの穴はきちんと描かないと。ー
一人でぶつぶつ呟きながら、彼はデッサンを進めた。
私は、彼の言葉ひとつひとつに一喜一憂している。なかなか手が進まない。
お前って意外と唇薄いんだな。ー
極め付けの一言。
一瞬ドキッとしたが、さっきから人のコンプレックスをズカズカと言ってくる神経。悪気のなさそうにしているあの顔が凄くムカついた。
「はい、そこまでです。」
先生の合図が教室に響く。
「それではお互いに見せ合ってみてください。」
緊張しながら、わたしはスケッチブックを裏返した。
「どう?俺の七瀬!上手く描けてるだろ!」
こういうのって本当に性格が出るな。ガサツそうに見えて、凄く繊細な線で描いてくれていた。
「そんなに目大きくない。」
「あー、これは俺の心遣い。」
「なんなの、それ。」
「お前の方こそ、未完成じゃん!俺の顔!」
「顔って大事だから慎重になりすぎた。」
私のスケッチブックには、顔の中心に鼻だけがある赤木くんがいた。