その手を離さないで。


赤木くんの視線が痛いほど伝わる。

七瀬って意外と髪長いんだな。ー
まつ毛長いんだな、それにくりんってしてる。ー
耳は小さいし、ピアスの穴はきちんと描かないと。ー

一人でぶつぶつ呟きながら、彼はデッサンを進めた。


私は、彼の言葉ひとつひとつに一喜一憂している。なかなか手が進まない。


お前って意外と唇薄いんだな。ー


極め付けの一言。

一瞬ドキッとしたが、さっきから人のコンプレックスをズカズカと言ってくる神経。悪気のなさそうにしているあの顔が凄くムカついた。


「はい、そこまでです。」


先生の合図が教室に響く。


「それではお互いに見せ合ってみてください。」


緊張しながら、わたしはスケッチブックを裏返した。


「どう?俺の七瀬!上手く描けてるだろ!」
こういうのって本当に性格が出るな。ガサツそうに見えて、凄く繊細な線で描いてくれていた。

「そんなに目大きくない。」

「あー、これは俺の心遣い。」

「なんなの、それ。」

「お前の方こそ、未完成じゃん!俺の顔!」

「顔って大事だから慎重になりすぎた。」

私のスケッチブックには、顔の中心に鼻だけがある赤木くんがいた。


< 8 / 19 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop