その手を離さないで。
きっと私はこの時から彼を意識していた。
ただ初めてのことに戸惑っていただけ。
「俺の顔ちゃんと描いたやつがほしい。」
唐突に彼がそう漏らした。
「え?」
「だから俺は七瀬のことちゃんと描いたんだから、七瀬も俺のことちゃんと描いて。ノートの切れ端でもいいから。」
「授業以外でってこと?」
「ダメ?」
こういうときなんて答えるのが正解なのだろう。
「考えておく!」
「あ、卑怯だぞ!」
赤木くんのペースにのみ込まれるのが苦手だった。でもこの時間がきっかけで、私は彼と話すようになった。
「最近司と葵って仲良いよね。」
更衣室で葉月が話題に出したのは、私と赤木くんのこと。
「そう?前より話すようになっただけだよ。」
「来週辺りにいきなり付き合ってたりして!」
恋愛話が大好きな美紀。
「有り得ないから!絶対。」
当時の私は、赤木くんが同じクラスの唯と両思いだと思っていた。実際に二人と同じ学校から来た美紀たちも、唯は赤木くんを好きだった時期があったと言っていた。