人魚の涙〜マーメイド・ティア〜



振り向くとそこにはよく知っている、昴がいた。



「あれ!?千晃!?」



昴もあたしの姿が目に入って話しかけてくる



「昴じゃん!久しぶり~!」



なぜかハイタッチをするこの男は、高坂昴《コウサカスバル》


麻奈美の義兄弟、兄に当たる人だ
麻奈美が施設から出て引き取られた先の家族にいたのが、昴だった


そして…



「麻奈美!心配したぞ、何もされなかったか?」


「…うん、大丈夫だよ。もう、昴は心配しすぎ。」



麻奈美の雰囲気が一気に柔らかくなる。


そう、二人は義兄弟でもありながら、恋人同士なのだ。


世間からしたらとんでもないことなのかもしれないけど、あたしからすればすごくいいことなのだ。


こうして麻奈美が自由に笑えて、自由に生きていける場所が昴の元なら周りから避難されようとも、二人の愛を守っていきたいとさえ思ってる。


実質、二人は血が繋がっていないのだから。


愛の形なんて人それぞれ。



「トイレ行くって言ってからなかなか帰ってこないから抜けて探しにきたわ!」


「大丈夫よ、子供じゃないんだから。それに千晃が助けてくれたから。」


「ほんとか!千晃、ありがとなっ!」


「ぜーんぜん!どういたしまして!」



あたしにとっても昴はいいお兄ちゃんになってくれている


麻奈美と再開したその日から、すごく妹のように可愛がってくれている。


そんな二人がなんでここにいるのか疑問に思っていると。



「そう、私まだ千晃に何も話してないの。」


「あ、そーなの?俺、もうてっきり言ってるのかと思ってた。今話すとこだった?」


「うん、今話そうかなって。」



二人で会話を進めていく


二人のやり取りをしばらく見てると結論が出たようで昴から話し始めた。



「俺さ、一応神獣の傘下、白龍っていう族の頭やってるんだわ。慎さんたちにはいろいろお世話になってて今回の集会にも呼ばれたんだけどさ。」


「え、何、じゃあ昴も慎たちと一緒で暴走族ってこと?」


「まぁ、そういうことだな!」


「えー!!!昴、そんなやんちゃなイメージないけど!?」


「はっはーん、俺だってな、裏の顔の一つや二つ持ってんだぞ?いつも陽気なお兄ちゃんじゃいられないぜ」



ふっと決めてる昴を鼻で笑う



「昴にそんなことできるのー?」


「俺だって本気になればなんでもできるぜ!」



二人でじゃれあい始めていると麻奈美が真剣な顔で話し始めた



「あのね、だから私は慎さんたちとは面識があったの。今まで知らないふりしててごめん。でも、あの人たちの良さも、昴通していっぱい知ってるから千晃を任せることにしたの。」


「…麻奈美は相も変わらず優しいね、慎たちが残される側なの分かってて、慎たちのことも守ろうとしたけど結果あたしの幸せを選んでくれた…、ありがとう。」



体育館裏でのことを思い出す。



“あいつらは無駄な喧嘩はしないし、女や子供には絶対に手を出さない。”



今ならなんでそんなことを知ってたのかもわかる。



「あたしは大丈夫なんだけど、昴、こんなとこに麻奈美連れてきたらダメじゃん。」



まぁ、連れてきたなら連れてきてるなりの理由があるんだろうけど。


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