人魚の涙〜マーメイド・ティア〜



「それは私から説明するわ。」



昴が言いにくそうな顔をしてるのを察してか、麻奈美が前に出る



「昴と私の関係は白龍のなかで知ってるのも幹部の子だけなの、他にはただの兄妹だと思ってるから。だからさっきの女の子たちも妹のくせになんで昴の横に居て守ってもらってるのか納得できない子が多いの。」



だからか、麻奈美が敵意を向けられている理由はわかった。あたしも神獣というメンバーに囲まれている中でそういう目で見られることを知った。



“嫉妬”“敵意”“憧れ”



そんな色々なものが混ざった眼差しで見られ続ける。


でもどうして、身内ってだけならそんなに干渉しなくてもいいじゃないか。誰もが自分の家族を守ろうとするではないか。



「二人は、兄妹っていう関係を周りに認識させてるわけだよね?それは神獣のみんなにもそういう認識で通ってるってことでいい?」



あたしの質問に答えたのは昴だった。



「あぁ。慎さんたちにもそう言って一緒にいることを許してもらってる。神獣の皆さんは深入りも探りもせず、麻奈美が姫でいることに分かってもらってる。」


「そう、わかった。じゃああたしもそうする。二人の関係はここだけの秘密ってことで。」


「千晃、ありがとう。」


「どうってことないよ!」



二人がそうしたいならあたしもそうする。それだけのこと。


周りに言っても理解されるのはとても難しいことなのかもしれない。だからこそ、二人で話して決めてることならあたしはそれを尊重するだけのこと。



「てか、千晃、ここにいて大丈夫なのか?」



昴が不思議そうに聞いてきた



「え、何が?」


「だって、お前、神獣の姫だろ?慎さんたちのそばにいなくていいのか?」


「あぁ、それね」



ブォォォォン!!!


部屋にいろと言われてたことを説明しようとしたその時に大きな騒音でかき消された


その爆音と共に中の動きが急に騒がしくなる。



「え、え、何事?」



3人とも辺りを見渡し何事かと思う



「もしかして何か決裂したのか、襲撃にあったのか、俺戻るわ!麻奈美と千晃は出来るだけ隠れてて!」


「あ、待って昴!」



麻奈美が引き止めた瞬間誰かの携帯が鳴り響く



「俺だ、何があった?」



電話に出たのは昴だったので着信の主がわかると、今度はどんどん顔が青ざめていく、余程のことがあったのかと麻奈美と顔を見合わせる。



「すんません!!はい、はい、あ、今俺と一緒にいます。ほんっと申し訳ないっす!!あ、はい!すぐ行きます!!」



青ざめた瞬間、誰かに何かを物凄い謝ったあとこっちを見る



「千晃、いくぞ!」



ガッと腕を掴まれて引っ張られる。



「え、なになに、どうしたの!?」



何が起こってるかわからず、昴に聞くと



「慎さんたちが血眼になってお前のこと探してるんだよ!俺、殺される!麻奈美もついてきて」



そういうと早足で倉庫の中に戻ってくと入口に慎が仁王立ちして待っていた


それはもう不機嫌度MAXで…



「慎さん!すんませんっ!」



慎の元まで行くと昴がすごい勢いで謝り始めた



「いや、お前が傍に居たなら心配はしてない。」



昴の肩に手を置いて大丈夫だと諭すとこちらにクルッと視線を向けると物凄く険しい顔になる



わーぉ、なんかすんごい怒ってるんだけど…



「…千晃。」


「…はい、なんでしょう。」



声も物凄く低い声で怒っていることがわかる



「部屋にいろって言われただろ。」


「はい、言われました。」


「なんで居なかった。」



どうやら部屋に居なかったことを怒っているらしい



「ごめん、少しお手洗いに行こうとしたらバッタリ麻奈美にあって、話してたら戻るの遅くなった。」



そういうと慎は深い溜息をついて口を開こうとするけど、またも大きな騒音にかき消された


音がした方をみるとそこには蓮と波瑠がいた。



「あれ、二人共どっか行ってたの?」



慎に聞くとまた深いため息が帰ってきた



「おいっ!!チビブス!どこに行ってやがった!」


「千晃!心配したよ!急にいなくなってるとビックリするでしょ?」



次々と話す、蓮と波瑠に圧倒されつつトイレに行ってたことを伝えると二人からもため息が帰ってきた


なんだよぅ、トイレに行っただけじゃないかよぉ…



「心配させんな。」



隣にいた慎にコツンと頭を小突かれる



…あぁ、みんなにあたしは心配をかけてしまったのか



「…ごめん。次は気をつける。」



みんなに頭を下げて謝るとそれぞれが笑って返してくれた



「千晃ちゃん!よかった!見つかったんだね!」


「ちーちゃんは人に心配かけるのうめぇーじゃねぇの~。」



後ろからやってきた敦先輩と奏多もどこか安堵した顔をしている


二人にも謝らなきゃ…、たくさん心配かけてしまったんだ。



「二人も心配かけてごめんなさい。」



そういうと敦先輩はコソッと近づいて教えてくれた



「千晃ちゃんがいないってわかった瞬間真っ先に飛び出して行った蓮の必死さを見せてあげたかったよ。」



クスクス笑いながら、内緒ね、と口元に人差し指を添えるしぐさは色気に満ちていてなぜか顔が熱を帯びた。



「…戻るぞ。昴、お前も来い。」



慎の一声でみんながぞろぞろと倉庫に戻る



「麻奈美も来なよ!」


「え、私は、」


「慎、いいよね?」



麻奈美が何か言おうとしたけどそれを遮る。


麻奈美のことだからまた一人でいようとするだろう、さっきみたいな事態になったら困る。
けど、その一任を決められるのが慎だから伺いを立てる



「…昴はいいか?」


「え!あ、はい!」


「来い。」



短いやりとりをすると許可がおりた



「やった!麻奈美も行こう!」


「でも、私は部外者だから…」


「だーめ!さっきみたいに怖いお姉さんに囲まれたらどうするの!ここで離れたら麻奈美を守れないでしょ!」


「私は大丈夫よ。」



もうほんと頑固なんだから。動こうとしない麻奈美にどうしたもんかと頭を悩ませる。



「おい、さっさと来いよ、じゃねーと、こいつがここから動かねぇだろ。」



蓮が気の利いた助け船を出してくれる


蓮、ナイス!と内心で褒めておく。口に出して褒めると調子に乗りそうだし。



「…わかった。」



渋々といった感じで麻奈美も動き始める。


一応、蓮にお礼は言っておこう。



「蓮!ありがとう!」


「ハッ、ばーか。」




グシャりと乱暴にあたしの頭を撫でる


えへへっ、それが照れ隠しなのあたしは知ってるもんね~
全く、蓮は素直じゃないんだから~



「なぁなぁ、あいつは千晃の友達か?」



蓮を見てニヤニヤしてると波瑠がチョイチョイと袖を引っ張って尋ねる



「うん!幼馴染みたいなもんかな!」


「そうなんだ!蓮と奏多みたいだな!」


「え、蓮と奏多って幼馴染なの!?」



なにそれ、初耳なんですけど!
だからか、奏多が蓮に妙に肩入れするのは。



「あれ?知らなかったのか?中学からずっと一緒だったらしいよ!」


「へぇ~、そうなんだ…」



あたし、まだまだみんなのこと何も知らないんだな…


大丈夫、時間がある限り、みんなのことこれから知っていけばいいだけだから。


そんなことを思いながら、さっきまでみんなが話していた広場まで戻った。


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