人魚の涙〜マーメイド・ティア〜
パッと後ろを向くとそこにいたのは慎だった。
「あっ…。」
「落ち着け、何があった。」
高ぶっていた感情は、慎の顔を見た途端穏やかな波に変わり静まり返っていく。
「…お手洗いに行こうとしたら、麻奈美がお姉さんたちに囲まれてたから少し乱暴した。ごめん。」
私のしたことは決していいことではない。
できた人間じゃない。
「そうか。」
慎はそれだけ言うとあたしから離れてマミの前に立つ。
「先に高坂に手を出したのはお前だな。」
「え…、ち、違うわ!慎さん!神獣の皆さんも騙されてますよ!あの女、何か企んで近寄ってきたんだわ。きっとそうよ!」
マミは慎が近寄ってきたことで頬を赤らめて甲高い声で叫ぶ。
別にあたしは何も企んでないし、ただ一緒にいたいと思って一緒にいるだけだ。
「黙れ。」
そんなあたしの思考を遮るように物凄く低い声が放たれた。
一瞬声が低すぎて誰だかわからなかったけど、それが慎だと気付くのにそんなに時間はかからなかった。
「ど、どうしてですか!慎さん、目を覚ましてください!!」
マミが叫びながらまた訴える。
それを容赦なく慎はぶった切る。
「黙れと言った。白田。」
慎はもうマミを視界に入れずに白田の方を見る
「…なんだよ。」
「この女、邪魔だ。」
「…俺がどんな女連れてこようが関係ないだろ。」
二人の無言の睨み合いが続いて辺りに緊張が走る
「ハッ、馬鹿馬鹿しい。だから僕は女が嫌いなんだ。どっちが嘘ついてるかなんて天秤にかけるまでもなくわかることでしょ。」
この緊張の中、意外にも口を開いたのは黒崎だった。
みんなが一斉に立ち上がって二人の間に入って制止する黒崎を見た
あたしもこの人が一番理解してくれるとは思ってなかったから意外な行動に驚きが隠せない。
「なんだ、黒崎まで俺に意見か?」
それでも強気な姿勢を崩さない白田
「僕はどっちが嘘ついてるかなんて見ればわかる。白龍の子が怯えてるし、神獣の姫があんなに怒るのもそっちの女が何かした証拠でしょ。それに頬の引っ掻き傷も見ればわかる。君の女の子たちが何回も白龍の女の子に突っ掛って行くのを僕は見たことがある。」
まるで、探偵のように話し始めた黒崎は案外人のことをよく見ている。
「…マミ、正直に言え。本当は何があった。」
白田はマミと向かいあって問い正す
「…何よ、白田まで信じてくれないの?」
「俺は事実を聞いてるだけだ。そこにお前を信じるか信じないかは関係ない。」
白田の淡白な物言いに少し違和感を覚えた。
ある意味隣にいるのはその人のことが大切だから隣に置いておくのであって、今の言い方ではそんな風に捉えられない。
「私です。私が白龍の女に手を出しました。」
いきなり話し始めたのは今まで沈黙を守ってきた金髪の姐さん、アミだった。
「アミ!何言ってるのよ!」
マミは必死に止める。
多分アミが言ってることは嘘だ。あたしがトイレに入ったときの立ち位置的にアミは扉の手前にいて、マミは奥の方で麻奈美の一番近くにいた。だからアミはマミのことを庇おうとしているのはわかった。
「もうまどろっこしいことはやめましょか。」
鳥居が急に立ち上がり割って入る
「白田さん、どうするか決めてくださいや。何が嘘か真実かはある程度もうわかりやしたでしょう?」
鳥居も入り、白田は考えるために目を瞑った