人魚の涙〜マーメイド・ティア〜
「俺たちは学校ではお互い知らない振りをしたほうが安全なんだ。」
安全?
あぁ…そういうことか。
あたしも散々追い掛け回された、あのお姉さんたちに目をつけられないため。
「…お互いに知らんぷりしたほうが平穏な学校生活が送れるのよ。あの学校で私のことを白龍の姫だということを知る人は幸いに居なかった。」
麻奈美が気まずそうに話してくれる
「…だからあたしにも知らないふりをしたってことね?」
麻奈美に確認すると静かに頷いた
…そっか、なんか少しショックというか悲しいというか寂しいというか
あたし、そんなに頼りないかな。別にそんなことを知っても麻奈美を特別視することもないし、なにか態度を変えるようなことはしないのに。
「なーにしょげた顔してんだよチビブス。」
相も変わらず偉そうな顔をしてあたしの肩に重たい腕を乗せる
「情報ってのはなぁ、どこから漏れるか分かんねぇんだよ。だから何も口にしねェ、何も見てねぇ、何も聞いてねぇ、それがいいことだってあるんだよ。」
こいつにしては珍しく難しいことを言う。
「そうかな…」
「あぁ。そうなんだよ。だから二人はおめーにいいことしてくれたんだよ。感謝しとけばーか。」
バシッ!と思いっきり頭を叩いて去っていく蓮の後ろ姿をみて、あぁ、今のは励ましなんだと気付く
「ぶっ、不器用すぎ…」
でもその励ましが今のあたしには暖かくていいものだった
「まぁ、そうだよね。蓮の言うとおりだよ、言ったとしてその場に誰もいないとは限らないしね!」
ニコッと麻奈美に向かって笑えば少しホッとしたように笑い返してくれる
「悪りぃな。千晃、お前にまで隠すような真似して。学校別だし千晃が知る世界でもないって思ってたから…。でも、これからはよ!こうして集まりあるたびに麻奈美も連れてくし、一緒に過ごしてやってくれよ!」
あたしの周りには温かい嘘や秘密がたくさん隠れていることに気がついた。
誰かを傷つけようとしてついてる嘘じゃない。
…それが分かれば十分だ。
「うん!学校今じゃクラス別になったし、こういうのがあれば自然と麻奈美と一緒にいれるし、心細くないもんね!」
「千晃!心細かったのか!?そうならそうと言ってくれよ!」
麻奈美と話していると波瑠が話しかけてきた
「あ~、うん。なんかどういう状況かよくわかってなかったし。置き去りにされても何してたらいいのか分かんなくて…。」
「ほら~!慎は千晃には何も教えなくていいみたいなこと言うけど、千晃は不安なんだよ!誰だって自分の知らないところで何か動いてくのってこえーんだよ。」
波瑠が珍しく慎を攻める
「あ、波瑠。いいの、あたしは大丈夫だから!確かにみんなとは仲間であるけどそれでも戦力にならないあたしに話したところで情報漏れの危険があたしにないとは言い切れないから…。一人でいることが心細かっただけで、これからは麻奈美もいてくれるならもう大丈夫だよ!!」
そう、あたしはみんなとは一緒にいるけど一緒に戦えるほど力があたしにはない。…今はだけど。
「へぇ~、姫ちゃんは強いんだなっ!」
今まで傍観を続けていた三宅くんがあたしに話しかける