人魚の涙〜マーメイド・ティア〜
少し言葉を選ぶような考えるような仕草をして彼は話し出した。
「千晃ちゃんがまずシンを投げ飛ばしたところ目撃されたらちょっとまずいんだ。」
「と言いますと?」
「俺たちはいわば暴走族って言われる類なんだけどね、そのグループの頭が千晃ちゃんが投げ飛ばしちゃったそこにいるシンなんだ。」
あたしは自分でもわかるくらいサッと顔が青ざめた。
いくらなんでもバカなあたしでも知ってる。
この町では暴走族が存在して、そこに属す者に手を出すと徹底的に潰されるという暗黙の了解みたいなのがある。
あたしには関係のないことだし、ここはそこそこ治安がいい場所でもある。だから出会うこともないと思っていたのに、まさかの自分が投げ飛ばしたのがその頭なんて。
「あ、でもそんなに怖がらないで。別に俺たちは千晃ちゃんをこの町から消そうなんて思ってないんだ。」
なんかサラッと怖いこと聞こえたけどあえてスルーして先を聞くことにする。
「ただそれを誰かに見られたりしたら厄介なんだ。周りから俺たちのトップが弱いって思われたりすると攻め込まれたりして下にいた子たちにも危険が及ぶんだ。それにそのあとに千晃ちゃんとシンが鬼ごっこしたみたいでそれを見られたら仲がいいと思われて千晃ちゃんが狙われることだってあるんだ。」
彼の話を聞いて私はつくづく今日はついてない日だと頭を抱えたくなる。
でもふと疑問が残る。
「あの、だったらなおさら2週間も一緒に行動する意味はなんですか?一緒にいたらあたしも怪我するってことですよね?じゃあ一緒にいない方がよくないですか?」
あの一瞬だけだし、これから関わらなければ済む話なのではないのか?
だったらあたしが今ここでちゃんと投げ飛ばしたことをお詫びして円満に終わればあたしも救われるってことではないか。
「んー、けどもう噂が若干広がっちゃってね、あのシンを投げ飛ばした女がいるって。まだ千晃ちゃんだって特定はされてないんだけど、万が一のことを考えて2週間だけ周りの様子だってことで一緒にいてもらえないかな?その方が俺たちも助かるんだよね。何かあったらすぐに対応できるし。」
困ったように笑う彼もどことなく妖艶で見とれそうになるがハッと現実に意識を引き戻す。
「対応してくれるのは嬉しいんですけど、あたし自分の身は守れるので大丈夫だと思います。ほんとに投げ飛ばしたことは謝ります、それじゃだめですか?」
あたしの言葉にさらに困った顔をして微笑む彼はシンと呼ばれる彼を見る。
「どうする?シン」
「…何が何でも一緒にいてもらうぞ。」