人魚の涙〜マーメイド・ティア〜



敦先輩は初めて会った時上辺の笑い方をしていた


これは小さい頃から人を伺ってきたあたしの変な癖ですぐわかってしまう


だから、なんとなくなんだけどいつの間にかちゃんとした気の抜け切った笑顔を見せてくれるようになって少し嬉しかったんだ



「…千晃ちゃんには敵わないなぁ。なんで俺の作り笑いがわかったの?」


「ん~、なんとなくですよ。強いて違いを言うなら本気で笑い時は眉間に皺ができることくらいですかね?」



そう、敦先輩は本当に面白い時は大きく口を開けて笑うとかより眉間に力が入った笑い方をする。それがまた品のある笑い方なのだ。


あたしの言葉にびっくりしたのか、また固まる



「あれ、先輩自分じゃ気づいてなかったんですか?」


「え、うん、初めて知ったかも。そうなんだ、俺そんな笑い方してるんだ。」


「ええ、多分みんな気づいてると思いますよ?」


「なんだ、知らないのは俺だけか。」



フハハハッと笑う敦先輩の眉間にはまた皺ができていた



うん、やっぱり…



「敦先輩、そっちのほうがいいですよ。その笑い方の方が先輩には似合ってます。おこがましいかもしれませんけど。あ、あたしお手洗い行ってきますね。」



チョンと眉間のしわをつついてお手洗いに立ち上がった





「…良き理解者で居たいけど、ちょっとこれは試練かな…」




そう呟いた敦先輩の言葉はあたしの耳には届かなかった



「あー、スッキリした。」



用を済ませたのでトイレから出たら扉の横に人が立っていた



「よぉ、ちょっとツラ貸せよな。」


「…奏多。」



奏多だった。久しぶりにガチな顔を見る。


警告された日以来かもしれない


奏多についていくと人気のない場所に連れてこられた



…これは多分なにかあたしに話があるんだな。



ある意味こういう場面では一番おふざけをしない人だ。


いつもは一番ふざけてるし、ムードメーカーだけど、誰よりもみんなのことをなにより蓮のこと真剣に考えて行動してる人でもある。



「…なぁ、あの日。なんで慎と蓮の違いがわかった?」



唐突に話しかけられたから一瞬話の理解に追いつかなかったけど、あの日、慎と蓮、それだけ言われればわかる



「屋上でのことだよね?まぁ、根拠はないけど、何となく、だよ。」


「なんとなくで分かんのかよ。」



奏多は不服そうな、納得してような顔をするのでもう少し自分の思ったことを話す



「二人は…なんかこう、纏う空気感が違うのよ。」


「…空気感ねぇ。」



そう、空気感。慎は澄んだような曇りのないような空気感、蓮の場合はギラついたような色鮮やかな空気感



そんな風にしか言えない



「あの時は後ろ姿だったからなんとなくだよ。」


「それで違ってたらどうしてたんだよ。」


「いや、間違えるなんてこと思ってなかった。」


「自分の目が正しいと?」


「あの時はそう思ってた。」



ずっと見られてた視線がすっとそらされる



「お前って、バカって言われね?」


「あー、うん、よく言われるかも。」



そう返すと鼻で笑われた。


笑われても仕方ないじゃん。実際馬鹿だし、間違えたことなんて考えてもなかった。


あれ、でもなんで奏多はあの時こっちの校舎の屋上にいたんだろう?


まぁ、そんなのはいいや。



「…話、あるんじゃないの?」



あの日のことより、今奏多が何を話したいかの方があたしには重要なことの方が気がする


焦って言わせるような事して悪いけど。



「まぁ、少し長くなるけどいいか?俺と蓮の話だ。」


「え…」


「聞きたくねぇのか?」


「聞きたいけど、いいの?」


「あぁ、今日お前の視線がずっと鬱陶しかったからな。」



あ、バレてたんだ…


幼馴染って聞いてから奏多が蓮に肩入れする理由はそれなんじゃないかなって思ってたから必要以上に見てしまっていた


それからゆっくりと奏多は話始めた



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