人魚の涙〜マーメイド・ティア〜
移動教室で教室を出たときに気がついた
「あ、やべ。俺教科書間違えて持ってきちゃったわ。」
「もー、奏ちゃん鈍臭いな。先行ってるね!」
「おう、先に行っててすぐ戻る!」
そういって戻ると教室に見慣れた姿があった
「…アキト?」
移動もせずに自分の席に俯いて座っているアキトがいた
「…。」
アキトは聞こえてるはずなのに反応を返さない
「おい、アキトってば。次移動だぞ?」
「…。」
それでも何も言ってこないアキトに近づいてみる
「寝てるのか?」
トンと肩を叩くと
ー…パシッ!
一瞬何が起こったのかわからなかった
「僕に触るな!この偽善者!!!」
手を叩かれたということは理解できたけど今度はアキトの言葉がわからなかった
「は?なんだよ、ギゼンシャって。」
「奏ちゃんのせいだ!僕がこんなふうになったのは!全部…。奏ちゃんなんか消えてなくなれ!!」
アキトは泣きじゃくりながら俺に暴言をぶつけた
「どうしたんだよ、意味が分かんねぇよ」
「奏ちゃんがジュンタと帰ろうなんて提案しなければ僕はこんな目に合わなかったのに!」
「は?どういうことだよ。」
アキトに詰め寄ろうとした時だった
「あっれー。奏ちゃんじゃん。」
サクヤがはいってきた
「移動教室なのに行かなくていいのー?」
「いや、教科書間違えたから取りにきただけだよ。そしたらアキトがいて…」
「え、奏ちゃんアキトって誰のこと?」
「は、何言って」
「奏ちゃんルールは守らないと。」
もう何がなんだか俺にはわからなかった
俺の目の前には泣いてるアキトがいて、それを見えてないかのようにルールは守れと言ってくるサクヤ。
俺はもう全て面倒に感じてサクヤに提案をした
「あのさ、もうこういうのやめない?」
そう話しだした俺をビックリした顔してアキトは見てきた
「は?奏ちゃん何言ってんの。」
俺の話に声のトーンを低くしてサクヤが言う
「だから、こうやって誰かを無視するの。なんかよくねーじゃん。そう思ってるのサクヤだけだろ?だったら、サクヤだけが離れればいいじゃん、みんなを巻き込むなよ。」
この時の俺は自体がそんなに簡単なことじゃないってわかってなかった
確かに俺の言ってることは正論だった
でもことはそんなに軽く進むものじゃなかった
「ふーん、そっか。わかったよ。アキト、移動しよう。」
サクヤはわかってくれたのか、やっとアキトを呼んだ
呼ばれたアキトはビクッと肩を震わせてそれに従った
「じゃ、先に行ってるね、“バイバイ、奏ちゃん”」
「あぁ、すぐ追いかける。」
それから俺の地獄の日々は始まった
そして痛感した。人とは脆いものだと