人魚の涙〜マーメイド・ティア〜
次の日から突然俺は“いないもの”になった。
「なぁ、おはよう。」
そう話かけても誰ひとり返してくれる人はいなかった。
その代わりにアキトとジュンがみんなの輪の中に戻っていた
とりあえず席について机の中にある教科書を取ろうと思ったら
ー…っ!
指先に痛みが走った
慌てて手を出すと指先が血まみれになっていた何かと思って机の中を覗いてみると教科書に突きたてられていたカッターの刃があった
…これは明らかに誰かがやらないと無理だろ
冷静にそんなことを思った
あぁ、俺は気が付いていた。気付いてて見ないふりをした
それがなにか知らなかったからなんて言い訳は許されないんだろうな。
ジュンの指に無数の絆創膏、アキトの腕の包帯
急にみんなに無視されるようになってから増えた傷
きっとこういうことをされたんだ。
その傷を見ていながら何も見ないふりをしていたらそれはきっと俺自身も彼らと同罪に見えるだろう。
自分の指から流れる血を見ながら理解する
「さぁ、席につけー」
そう言って先生が入ってくる
この変な空気にも先生は気付いてない、気づいてるけど気づいてないふりをしてるのか分からなかった
昨日まで笑い合ってた友達が全員俺を見ないように触れないように細心の注意を払って俺を無視する。
「なんか、どうでもいいや…。」
もう何が本当で何が嘘で何が信用できて、信用できないか。俺にはもう何もわからない。
俺は知らないことが多すぎる
移動教室の時もひとりで移動していた
階段に差し掛かったところで不意に背中を押されて視界が揺れた
揺れた先に見えた人物が落ちていく中で見えた
ー…なんでだよ。
そう思ったところで意識が切れた