人魚の涙〜マーメイド・ティア〜



中学に上がってからも相変わらず俺へのイジメは続いていて、むしろ小学生活よりもっとタチが悪いものになった


もちろん、周りは見ないふりだ。


同じ小学校に通っていない人たちもそれがなんなのか理解して誰も俺には近寄ってこなかった。


みんな、なんで当たり前に知っていることをどうして俺は知らなかったんだろう。


あぁ、そんな後悔してもどうしようもねぇや。



そんな日々が中1が終わる頃まで続いた



「あ、悪い。手が滑った。」



階段から落とされたり、


誰かが催して流さなかった男子便に閉じ込められて上から水が降ってきたり


殴られ蹴られ


もう何をされても何も感じなくなって反応がなくなっていた頃、サクヤはつまらなくなったのかある日珍しく放課後校庭のど真ん中に俺を呼びつけた



「なぁ、ここで全裸になって踊れよ。」



一瞬何を言われてるのかわからなかった


今は放課後で下校している生徒もいる。


ここで脱いだら騒ぎになる…



「…嫌だ、それは出来ない。」



俺はこのいじめが始まって以来、初めて口答えした



「ノリ悪いなぁ~、こういうのは全部ノリだろう?おい、ジュン、アキト、脱がせ。」



控えていた二人が俺ににじり寄ってくる



「お、おい、お前らもやめろよ、正気か!?」


「正気だよ。君に恥かかせられる。」


「早くして。もう俺そういう抵抗とかめんどくさいから。」



ジュンもアキトも俺と一緒にいた頃より目が死んでいる、もうこの2人は俺が知っている奴らではなかった


二人が俺に掴みかかってきて、制服を無理やり脱がそうと抑えかかってきて崩れ落ちる



「や、やめろって!」



制服は砂まみれになって、ブレザーからネクタイまで外される


周りは何をやってるのか好奇の目で見始めた


あぁ、もう疲れた、俺は。こうやって周りは見てても誰も助けてはくれない。周りに助けを求める俺も馬鹿だな



そう思って、抵抗も辞めた



…その時俺の視界が急に西日で明るくなった



「なぁ、それおもしれぇーか?」



視界が開けた俺の目に写りこんできたのは、真っ赤な髪の色をした奴が現れた



「なっ、あんたが、どうして!!」



サクヤが急に狼狽えだした



「あ?なんだ、誰だてめぇ、こんな遊びを思いついたのはお前か?」



赤い髪の男は躊躇いもなく歩み寄ってサクヤの胸ぐらを掴んで笑った



「おもしれぇならまずはてめぇがやってお手本見せてみろや。」



そして遠慮なくサクヤを殴りつけた



「も、もうしない!行くぞ!奏多、覚えてろよ!!」



そんな漫画にあるようなセリフを吐き捨ててサクヤたちは走って逃げていった。


そんな後ろ姿をポカーンと眺めていると赤い髪の男が振り返って言った



それが俺の運命を動かした




「お前もさ、嫌なら嫌だって抵抗しろよ。そんなんだから舐められてダセぇことになってんだろ。強くなれ、なんでもいいから抵抗しろ、抗え。」




眉間にシワを寄せて俺を睨みながら言う。でも、次の瞬間最高にかっこよく笑って見せた



「そんでも、ダメなら俺を呼べ。」



もうその瞬間、時が止まったような感覚だった


そんな誰かに助けを求めていいなんて言ってもらえるなんて思ってもみなかった。


それだけ言い残してその人、俺のヒーローもが去ろうとする


俺はこのまま何も言わなかったらもう会えないような気がして何も考えず引き止めた



「あ、あの!」


「あ?」



西日が眩しくその人を照らす



「な、名前を!き、聞いてないから呼べない…。」


「ブッ!雨宮蓮。二年生だ、俺の名前覚えるより一人で戦えるようにまずてめぇが強くなれ。言っとくけどお前を助けたのは気まぐれだからな。じゃあな。」



そう言って今度こそ俺に背を向けて去っていった


その姿が今でも思い出せるくらい鮮明に覚えてる。



< 128 / 135 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop