人魚の涙〜マーメイド・ティア〜
「お前どういうことだ。」
「え、なにが?」
「そのままの意味だ。」
「いやいや、わかんないから!主語なさすぎ!」
神獣の溜まり場から慎に送ってもらい道を教えて家の前まで送ってくれてヘルメットをとりお礼を言いながら慎に渡したらいきなりこれだ。
ほんとにこの人は国語をやり直したほうがいいと思う。
バイク乗るときも主語なくてわかんなかったし
「このアパートどう見ても1人しか住めないだろ。」
「そうだよ、あたし一人暮らしだもん。」
なるほど、このボロいアパートを見てどういうことかと思ったんだろう。
安いところを借りた、1DKしかないアパート。
まぁ頑張れば二人住めないこともないけどコンパクトサイズだよね。
「なんで言わなかった。」
「聞かれなかったからね」
言わなかった理由はそれだけ。
聞かれなかったから。
聞かれない限り家族構成とか一軒家だとかそんなこと人にペラペラ喋る人ってなかなかいないんじゃないかな。
「チッ、もういい。帰る。」
え、なんでいきなりふて腐れてんの。
慎にあたしは少し困惑して見つめてしまう
「なんだよ。」
あたしの視線が気になったのかこちらをチラッと見て尋ねる。
「なんかもっとこう慎って感情あんまり出さない人かと思ってた。拗ねたりもするんだね、かわいいじゃん」
少しからかいも込めてツンツンとほっぺを突くとその手をペシッと叩かれて
「うるさい。」
…照れてる。
なにこの生き物可愛いんですけど!
「ぐふふっ。」
つい変な笑い方をしたら眉間に皺を寄せて顰めっ面をする慎
「チッ、さっさと部屋入って戸締りして寝ろ。」
くるっと体を回されて背中を優しくトンっと押される。
「はいはい、また明日ね」
挨拶だけしておき、歩いてポストに向かい郵便物を確認していると
「ー…じゃあな、千晃」
ー…ドクンッ
ブォォォーンと音を立てて走り去っていくバイクをあたしは呆然として眺めていた。