人魚の涙〜マーメイド・ティア〜


「ねぇ、千晃ちゃん。お願いがあるんだけど」



物思いにふけっていた思考を止め敦先輩を見る



「どうしたんですか?」



あたしの問いかけに少し困ったように眉を寄せて笑う敦先輩は少し言いにくそうに



「ここからは歩いて学校に向かってもらえるかな?」


「いいですよ?」



なんでそんなことを言いにくそうにするんだろう?
ここまで送ってもらえたことだけであたしにはありがたい。



「学校までほんの少しの距離だけど気をつけて行ってね」


「大丈夫ですよ、1限目には間に合いそうです!助かりました!ありがとうございます」



念を押すように敦先輩は言うが、このほんの数メートルで何か起こるとも思えないし、何か起きたとしてもあたしは対処できる。


それよりなんでそんなに申し訳なさそうに言うんだろ?そっちのほうが気になるわ


車から降りて学校に向かい、正門をくぐるとそれを確認したかのように先輩を乗せた車は走り出した。


そういえば先輩は降りなかったけどどこか行くんだろうか?


まぁ東棟の側の人だから授業なんてやってるのかも不思議なくらいだけどね。


あたしは敦先輩の行動をなんとも思わず校舎に向かった。


下駄箱で靴を履き替えていると



「千晃!ちょっとあんた来て!」


「麻奈実?どうしたのそんな声を荒げて」



そんなことどうでもいいから!とかなり必死な様子であたしの腕を引っ張るもんだから黙ってついていくことにした。


連れてこられた場所は体育館裏だった。



「あんた、神獣とまさか関わってないわよね!?」



着くやいなや辺りを確認してから声のトーンを落として聞いてくる麻奈実



「あ。関わったというよりか…」



背負い投げしたからなんてとてもじゃないけど言えない



「私言ったよね。」


「…覚えてますとも。」



忘れるわけない、あたしのためを思って言ってくれた麻奈実の忠告を。



「“神獣とは何があっても関わらない”でしょ?」


「覚えてるなら!なおさらどうして関わったのよ!」



麻奈実は本当に心配そうにしてる。



「んー、麻奈実が思うほど危険な奴らじゃないと思うんだけどなぁ。」



あたしは昨日感じたことを言った。



「それは知ってる。あいつらは無駄な喧嘩はしないし、女や子供には絶対手を出さない。」



じゃあ何をそんなに心配してるんだろう?



「あいつら、全員イケメンだったでしょ。」


「は?」



ジロリと麻奈実があたしを睨むけど今のは不可抗力というやつだ。


だっていきなりイケメンだったかって聞かれたら間抜けな顔にもなるでしょうよ。


まぁ、確かに全員イケメンではあったな。


ムカつくくらいにね。



「あんたは知らないと思うけどこの街じゃ彼らはかなりの有名人だし、ファンまがいみたいな女も多いのよ。」



あぁ、なるほど。
なんとなくだけど麻奈実が神獣を敬遠する理由がわかった気がする。



「その女の子たちが厄介ってこと?」



あたしの答えにこくりと麻奈実が頷く。



「神獣に近づきたいがためにわざわざここに編入してくるようなバカだっているのよ。近づいた女なんてフルボッコよ。」



フルボッコって…言い方が古臭いな。


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