人魚の涙〜マーメイド・ティア〜
『ー…あき!』
誰?
『ー…千晃!』
誰かがあたしを呼ぶ。
振り返ればそこにいたのは
篤樹《アツキ》
『千晃、泣かないで。』
泣いてる?あたしが?
『麻奈実は幸せになるんだから、笑顔で見送らないと麻奈実も行きづらいだろう?』
あぁ、これは子供時代だ。あたしの。
『ほら、タクマも。』
篤樹の後ろに隠れてグズグズ泣いている拓磨《タクマ》
『ぼ、ぼくはまなちゃんがいないとさみしいよ』
『そんなこと言うなよ、麻奈実は自由に生きるんだ。』
篤樹の目が子供ながらに鋭くなる。
『ご、ごめん』
拓磨が謝る。
『ほら行こう、麻奈実にちゃんと挨拶しよう?きっとまたいつか会えるから』
そう言って篤樹はしゃがみ込んでいるあたしに手を差し出す。
あたしはこの手が好きだった。
いつも守ってくれる手だった。
その手にそっと自分の手を重ねるとキュッとちゃんと握り反対の手で拓磨の手も引く。
『行こう。』
あたしたちは門に向かって歩き出した。