人魚の涙〜マーメイド・ティア〜


…懐かしい夢を見たな。


あたしはゆっくりと体を起こす。


古文授業で先生があまりにもいい声で読むもんだからお腹が満腹になったこともあってかいつの間にか眠りの世界に飛んで行ってしまっていた


教科書で顔を隠しながら大きな欠伸をする。


麻奈実が今朝言った言葉の影響なのか、夢を見てしまった。


チラッと麻奈実を見ると寝ていた。


麻奈実とは小6の頃まで一緒にいた。


正確に言えば一緒に育ったうちの1人だった。


麻奈実を見ていたらあたしのポケットが振動したのでピクッと肩が揺れた。


ポケットに入れていたスマホを取り出すとロック画面にLINEのトークが表示されていた。


【放課後、今日朝別れたところで待ってるね】


敦先輩からのメッセージだった。


どうやら今日も行かなくてはならないみたいだ。


【わかりました】


と一応返信しておいた。


放課後になり、朝別れた場所まで向かう。


学校を出る際に麻奈実からよく注意して周りを見なさいよっと言われた。


ほんとに心配性なんだから


あたしは歩きながら1人で苦笑いした


車を見つけて一応言いつけ通り周りを見てから乗った。



「お疲れ様」



乗り込むとやっぱりいつ見ても爽やかな先輩が迎えてくれた。



「お疲れ様です。」



あたしが乗ってシートベルトをしたのを運転手さんが確認するとゆっくりと車が動き始めた。


なんとなく沈黙になってしまったのであたしは気になっていたことを敦先輩に聞くことにした。



「あの、なんで今日は裏門からこなかったんですか?」



あたしの質問に少し困ったように笑って答えてくれた。



「今日から2週間、裏門の工事をするらしくてしばらくの間通れないんだ」



困っちゃうよねーと言って少しゲンナリした様子



「やっぱりあんなに騒がれるとね、正門も通りづらいよ」


「すごい人気なんですね」



苦笑いするた敦先輩にあたしも苦笑いを返した。


まぁ確かにあんだけきゃあきゃあ朝から言われたら正直あたしも気が滅入りそうになる。


いや、言われたことなんてないけどね?
これから先もきっとないけどね?


やっぱり彼らはそれなりにモテるのだろうな。


…羨ましいぜ、こんちくしょう。


あたしなんて一回も告白されたことがなければ、付き合ったこともない。


恋愛経験値に関しては皆無に等しい。



「敦先輩、あたしはイケメンに生まれたかったです」


「ぶっ、美人とか可愛いじゃなくて?」


「やっぱり女の子にきゃあきゃあ言われてみたいです」


「千晃ちゃんって変わってるよね」



敦先輩の今の言葉は悪口ではなくていい意味なんだろうと受け止めておいた。



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