人魚の涙〜マーメイド・ティア〜
荒く呼吸をするあたしに虚ろな目を向ける波瑠
「…ぅ、ぃ」
「え?なんて?」
波瑠が何かを言ったが聞き取れなくて、さっきのキツイ言い方のまま聞き返してしまった
「うるさいっ!!あんたなんか大っ嫌いだ!」
波瑠は辛そうな後ろめたい顔をして言葉を残し、部屋を勢いよく飛び出して行った
…あたしも感情的になりすぎちゃったかな
今後波瑠があたしと口聞くことなんてほとんどなくなるかもしれないなぁ
…もっと優しい言い方すればよかった
きっとあの言い方じゃ彼を追い詰めてしまうだけだったかもしれない
「はぁ…」
ため息が出て下を向く
こんなことになった原因の1つのプリンが無残に落ちていた
とりあえずこれを片付けないと
そう思ってしゃがみ手を伸ばすとまた大きな音を立てて部屋の扉が開いた。
「…おかえり」
そこに立っていたのは蓮でなぜか目をギラギラと釣り上げてあたしを睨みつけズンズン近寄って来る
「ぎゃっ、なにすんの!」
あたしの奇声は蓮がいきなり胸ぐらを掴み思いっきり引き上げたからで
「てめぇこそなにしてんだよ、あ?波瑠傷つけたのてめぇだろ、殺すぞ」
…やっぱり波瑠傷ついてたよね
怒鳴る蓮から視線を外してしまう、事実だから
「蓮、やめなよ。千晃ちゃんは理由もなしに人を傷つけるような子じゃないと思うしちゃんとなにがあったのか聞いてからにしなよ」
声がした扉の方を見ると残りの慎、奏太、敦先輩がこっちを見ていた
チッと舌打ちをして蓮はあたしを突き放す
…少し敵意を向けられてる
敏感に反応してしまうこのセンサーは今まで感じなかったほんの少しの敵意にも反応してしまう
「…千晃ちゃん、なにがあったのか話してくれる?」
敦先輩はこの中の誰よりも敵意が少ない
あたしと一緒にいる時間が多いからなのか
「…まず敦先輩に謝らなきゃいけないことがあって」
敦先輩はあたしの言葉にキョトンとする
「プリン、ダメにちゃいました。せっかく買ってくれたのにごめんなさい」
せっかくあたしのために買ってくれたプリンを駄目にしてしまったことが許せなくて波瑠に怒ったってことを説明する前に、敦先輩にどうしても謝っておきたかった
「…なるほどね」
あ、敵意が感じられなくなった
敦先輩だけあたしへの敵意がスッとなくなった
それから残りのみんなにあたしは事情を説明した