人魚の涙〜マーメイド・ティア〜
「ほら、慎。離してあげて」
離して?あ、もしかしてあたしのこと?
敦先輩を見ると苦笑いのような表情でアホトリオを叱った時のような死神の顔はしてなかった
どうやら慎には甘いようだ
不貞腐れたようにあたしを元の位置に戻す
思ったけどそこそこあたし体重あるのによく持ち上げられたな、凄い力持ちだわ
「敦先輩、ありがとうございます!助かりました」
恥ずかしい格好から解放してくれた敦先輩にお礼を言うと爽やかに微笑んでくれた
それからは波瑠も入ってみんなでDVD見たり、Wiiをやったりして過ごした
某有名なカーレースゲームであたしが一位だったのに蓮にコース外に何度も押し出され最下位でゴールしてしまった時は殴ったり、チームで戦う時はあたしと波瑠、蓮と奏太、慎と敦先輩で分かれたが結果はわかりきってて慎と敦先輩ペアが何度やっても優勝する。どんな裏ワザ使ってるのか気になった
そんな馬鹿げた2週間という日常がもうすぐ終わる
ー…少し淋しい気もする
今日は日曜なので少し早めの17時に送ってくれる
「…何?あたしの顔になんかついてる?」
いつも通りバイクから降りてヘルメットを差し出す
でも慎が受け取ってからもマジマジと人の顔を見るもんだから変なのかと思ってしまう
いつも変な顔してるかもだけどさ。
「…友達、いないのか?」
「は?」
また唐突にこの人は話しやがる、頼むから主語をつけてほしい
「お前、土日も平日もずっと一緒にいるから」
はぁ…とため息をついて慎の言いたいことを頭の中で整理していく
平日も休日も俺たちと一緒にいる=友達がいない
いやいやいや!待て待て!
「いるわよ!友達!けど2週間行かなきゃダメなんじゃないの?」
慎は眉をひそめて
「遊びに行くなら言え」
え、そうすれば毎日行かなくてよかったの?
強制じゃなかったってこと?
なんだ、そっか。そう思うとなんだか急に笑えてきた
「あはははっ!まぁいいや!慎たちと過ごした日々も遊んでたようなもんじゃん、楽しかったよ」
あたしが笑い出した時は変な人を見る目だったけど、意味がわかると優しく微笑んでくれる
「あぁ、俺たちも楽しかった」
あれ、なんだか最後の別れみたいな雰囲気になっちゃってる
「なぁ」
「ん?」
慎がこんなに話すのは珍しい。
話しかけてくることも珍しい
「…夏休み、BBQしたり花火するらしい」
「そう、楽しそうじゃん」
慎の言葉に笑って返すのが精一杯だった
そんなことを言われたら…
もっと、もっと。と願ってしまう自分がいる
あたしの許される時間の限り、こんな暖かい場所にいたいと願ってしまう
1人は嫌だと、もっとたくさん笑っていたい、と。
そんなことを考えてしまう自分を心の中であざ笑う
決して
“ーーーー”なんて望んではいけない。
わかってる、大丈夫。
なのに…いつからあたしはこんなによく深くなったんだろう
心が嫌悪感に支配されて行く
「…お前も来い」
ードクンッ
やめて。
「…俺たちと一緒にいろ」
ードクンッ
やめてよ、
「…考えさせて」
俯いていた顔を上げると慎の顔があたしの瞳に映る
でも見なきゃよかった
「あぁ、待ってる」
慎の瞳は迷いなんかこれっぽっちもなくて
強い意志を持った瞳だった。
あたしはそういう瞳が苦手だ
…あたしには一生できない瞳だから
「じゃあな、戸締りちゃんとしろよ」
「うん、ありがとう」
慎はふわりと微笑んで帰っていった