人魚の涙〜マーメイド・ティア〜
なんで?
あたしの頭の中は忙しい
それしか浮かんでこない
どうして?
いきなり殺気を放って
あたしを蹴りつけようと思ったのかも
全部が分からない
「慎さんを投げ飛ばしただけあるよな」
奏太はそう言ってあたしに当たらなくて塀を蹴りつけた足を元に戻す
「突然蹴りつけたのに避けれるなんてあんたほんとは強いんじゃないの?」
奏太を見上げるとすごく冷え切った目をしていた
…怖い
喉がカラカラに乾いていくのが自分でも分かる
「ねぇ、無視?」
ー…ダンッ!!
「なんだちゃんと反応できるじゃん」
今度は拳が顔面をめがけて飛んできた
あたしはそれを寸前のところで避けるが、背中は塀に押し付けていたので横にしか避けられずバランスを崩して地面に倒れこむ
…本当にこの人は誰
あたしの知ってる奏太じゃない
あたしは地面とスレスレだった顔を上げて、キッと奏太を睨む
「何その目、超ムカつくんだけど」
奏太は思いっきり足を振り上げあたしを踏みつけようとするがそれを塀とは反対側に転がって回避する
最悪だ、制服が汚れる
そんなことを考えられるほど、あたしは落ち着きを取り戻してきた
「…どうしてこんなことを?」
どうして奏太がこんなにもあたしに敵意を向けてるのか分からなかった
あたしの中では一番表情が分かりやすくて、感情が読み取れて裏表もない根は真面目な人だと思ってたのに
今の奏太からは何を考えているのかも、何も思っているのかも全くわからない
「マジ目障りなんだけど」
こんなにも冷たい奏太をあたしは知らないよ
ねぇ、どうして?
あたしの思考回路はそれ一色に支配された