人魚の涙〜マーメイド・ティア〜


奏太とあたしの無言の睨み合いが続く



「何が目的か知らないけどさ」



睨み合いを破ったのは奏太でグイッとあたしの胸元を掴み引き上げる


そのおかげで首が絞まって苦しい



「俺たちにこれ以上踏み込まないでくれる?」


「ど、して?」



首を絞められている状態なのでうまく喋ることが出来ないがちゃんと意味は伝わったみたいでさらにキツく握れる



「だからそういうところ、それを深入りっていうの。」



理由を聞いただけで深入りなんて
それだけあたしは“拒絶”されているってことか



「慎さんは優しいからあんたみたいな得体の知れないやつでもそばに置いてくれるけど、これ以上踏み込まない方があんたのためでもあるんだよ」



ますます意味がわからない
考える脳も酸素が十分にいかないせいかぼんやりしている



あたしのため?どういうこと?
さらに意味がわからない。


奏太はそれだけ言うとパッと手を離した
そのおかげで浮いていた腰を地面に強打する


涙が出るくらいの痛さだ
いや、もうむしろ出てるけど


いきなり入ってくる酸素にあたしは噎せ返った



「あははっ!千晃、何してんのー?学校遅れるじゃん!早く起き上がれよ!」



さっきの喋り方とは違って、スッと手を差し出してくれる奏太はいつもの、あたしが知る奏太で


どっちが本当の奏太なの?


あたしの頭はこんがらがるばかりだった


なかなか手を取らないあたしに痺れを切らしたのか腕を持ち上げて無理やり立たせてきた奏太は、今度はヘルメットを押し付ける



「ほらっ早く乗った、乗った!」



今まで通りに振る舞っている奏太からなんとなく意味を汲み取る



ー…とりあえずいつも通りにってことか



「ありがとう」



ヘルメットを受け取り、あたしもいつも通りに振る舞った


そうしないとなんか負けた気がしたからだった。


そのまま学校へ向かった


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