人魚の涙〜マーメイド・ティア〜



「どーしよぉぉぉ!」



あたしはすごい乙女らしからぬ声を出して机に伏せる



「まぁいいんじゃない、あんたってバレてないんだし」



目の前でお弁当を広げて他人事のように話す麻奈実をジロリと見る


実際に他人事だけどさ
もうちょっと優しくいこうぜ、麻奈実さん



「あんたってバレたら即死ね」


「心なしか嬉しそうにしてるのはなぜかな…」



麻奈実はニヤリと笑う


女帝だ、女帝


あの後奏太といつも下ろしてもらう場所で別れて学校に入るとすぐに聞こえてきた言葉にびっくりした



「神獣様に女が出入りしてるですって!なんでいきなり!?ふざけんじゃないわよ!」


「見つけて吊るし上げにしましょう!」



って女子が殺気立っていた


待て待て待て、出入りしてる女って


あたしのこと!?


記憶に残る限りこの2週間、倉庫に女が出入りしてるところを見たことはない


確実にあたしだ。多分。


いや、あたしが帰った後にまた誰か違う女の子が出入りしてたらわかんないけどね!?



「バレたらどうしよう、ボッコボコのメッタメタだよ」



バレた時の末路を思うだけでゾッとした


昼休みなのにこんなにバタバタと廊下を走り回って血眼で探しているレディーたちは怖すぎる



「…でもなんか変ね」



麻奈実の意味深な言葉にムクリと体を起こす



「変ってなにが?」


「なんでこんないきなりバレるの?このほぼ2週間なにもなく見つからなかったのに」



言われてみれば確かにおかしい



「もうすぐタイムリミットなのに」



この2週間、あたしは誰かに身柄を狙われるわけでもなく凡人として普通科の生徒となんら変わらない日々だった


それなのに突然校舎を駆け巡る噂の女



「“バレなかった”んじゃなくて、“隠してた”ことを“隠さなくなった”としたら?」



でもそしたら1つ疑問が残る



「なんのために?」


「さぁ、なんでかしらね…。」



麻奈美はそれだけ呟いて口を閉ざした


なんだか今日は頭を使ってばっかりだ


ー…隠してたこと隠さなくなった


今まで確かに誰にも見つかることなく隠されてきたけど、それは今日も同じなはずで誰かに見られた覚えはない


考えれば考えるほどわからない



「あ、そっか。なるほどね」



麻奈実が何か納得したようにニヤリと笑う


やっぱりあたしより人生経験も頭もいいだけある!
同い年だけど生きてきた世界が違えば考え方も多種多様だ



「え、何!教えて、どういうこと!?」



チラッとあたし見て、フッと笑うと麻奈実様



「教えない。でも、あんたが出そうとしてる答えの後押しになるんじゃない?」



what???



ますます意味がわからない


なんだよ、どいつもこいつも!
意味不明な言葉ばっかり言いやがって!そんなにあたしに頭を使わせたいのか!!



「こんちくしょー!!」


「どーどー」



あたしは牛か!和牛か!黒毛和牛か!


くそぅ、もう考えるのはやめだ


今一番出さなきゃいけない答えを考えることにしよ


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