人魚の涙〜マーメイド・ティア〜
それから翔さんにごちそうさまでしたと挨拶して帰るんだが、食後の運動とか言って倉庫まで歩いて帰るらしい
「気にならないの?」
あたしはさっきからずっと気にしてしまう
「あ?何が?」
隣を歩く蓮がぶっきら棒に聞いてくる
「この女の子達からの視線だよ」
「んなもん、慣れだ」
慣れでどうにかなるもんか!
どう見てもキャーキャーうるさいし、おまけに写真までカシャカシャ撮られて慣れとはなんだ、慣れとは。
まぁこんだけ美形揃いなら有名人並みに騒がれても仕方ないのかもしれない、それにこの人たちある意味有名みたいだし
「おい、チビブス。ほんとにいいのか?」
「チビブス言うな。何が?」
いきなりしおらしくなる蓮が少しキモい…じゃなくて変だ
「俺たちと関わったら普通の生活できねぇぞ、毎日こんなんだ。」
またその話か。
「まだあたしの中でも答えは出てないよ」
あたしの答えにチラッと蓮がこっちを見たのが横目でわかった
「あたしさー、みんなと一緒に過ごせた毎日すごい楽しかったんだよね。でも、これからずっと一緒に居れるかはわかんないんだわ。」
なんでこんな話を蓮にしてるのかは自分でも分からない
けど、伝えなきゃいけない気がした
ただそれだけ
少し前で慎と敦先輩がなにやら話し込んでいる姿を見る
「どういう意味だ?裏切るってのか?」
蓮は一気に眉にシワを寄せて敵意を露わにする
奏太より蓮の方が分かりやすいな。
あれは全部演技っぽいし、こっちはほんとに単純だな
裏切る?
「まさか。そんなつもりないよ。ただあたしには時間がないってだけ。まぁあんたたちと違ってやることがたくさんあるってこと!」
あたしは重々しい雰囲気を払拭するためにバシッと蓮の頭を飛びながらチョップする
「いってぇ!何すんだよ、このチビブス!」
怒りで顔を真っ赤にする蓮を見て思わず笑ってしまう
「茹でタコみたい!」
「んだと、てめぇ!ぶっ飛ば」
蓮は最後までセリフを言い切ることなく前のめりに倒れこんだ
「千晃になんてこと言うんだ!このバカ蓮!」
さっきまで後ろで、俺の方が強いだ、腕相撲で勝負だなんだとアホみたいな言い合いを奏太としていたはずの波瑠があたしの悪口が聞こえた途端すごいスピードで蓮に飛び蹴りをかましていた
「いい度胸じゃねぇか!このチビ!やんのか!」
起き上がり波瑠を上から目線状態で睨みつける
「じゃあさ、ここは男らしく後で野球拳で勝負しようぜ」
ニヤニヤしながら止めに入るわけでもなく奏太が参戦し、アホトリオが完成する
なんで男らしくが野球拳になるんだ
巻き込まれる前に退散しよ。
そう思って後ろ数歩下がる
ー…あれ?
その数歩のおかげかあたしはあることに気がついた
「慎と蓮、後ろ姿そっくり…」
そんなあたしの囁きに近い声に
ピクリと反応したのは奏太でニヤリと笑ってくる
あとの他は話に夢中で聞いていないようだった
…気のせいかな?
いやでも奏太は反応したし、意味深な笑みも浮かべた
まぁなんでもいっか
あたしたちは騒がしいまま倉庫に戻った