人魚の涙〜マーメイド・ティア〜
倉庫に着いてすぐ、あたしは明日も学校があるし遅い時間だからということで慎に送ってもらった
「ありがとう、バイク乗ると涼しいね!」
もう梅雨のようなジメジメとした暑さはないがムシムシ蒸すような暑さはある
でもバイクに乗れば風が気持ちよくすり抜けていく
「あぁ。けどさらに暑くなったらそうでもねぇ」
慎はダルそうに応える
慎はなんでかみんなの前だとあんまり喋らない、いや会話に入ってこない。
でも、2人だとちゃんと会話はできるから大人数がダメなだけなんだろうなって最近わかってきた
「明日、朝は迎えに来る。帰りはいつもの場所に来なくていい」
そんなことを考えて慎をぼんやり見ていたら、唐突に現実に引き戻される
「…来なくていい?」
待って、あたしはまだ返事をしていない
けど、来なくていいって…
あたしの存在はそこまでいるってわけじゃないのか
「明日、もし答えが出たなら帰り東棟の生徒会室に来い、そこに俺たちはいる」
あたしはその言葉に咄嗟に顔を上げた
「フッ、待ってる」
慎はそれだけ言うとあたしの頭を優しくポンポンと叩く
それさえも待ってると言わんばかりの優しさが溢れていた
どうしよう
でも正直あたしの中に答えはいつからか出てはいた。
ー…一緒に居たい
けどその思いを言えないのは…
「嫌になるな…大事なものが増えるって」
慎とバイバイしてからそればかり考えてまた寝られない
明日、東棟に行けば一緒に居られる
でも行かなければまた普通の日々に戻るだけ。
…生きてるって実感もなく過ごすだけ。
あたしは神獣と少しの間だけど一緒に過ごして
楽しかった、またバカやりたいって次の日に希望を持つことの楽しさを教えてもらった
知らないうちにこんなにもあたしになかった感情を教えてくれていたんだ…
目を瞑る。
映るのは昔の自分の姿
ねぇ、もう少しだけいいかな?
ワガママ言っても許されるかな?
小さなあたしに問いかける
小さなあたしは大きなあたしを真剣に見て子供なりに精一杯頷いていた