人魚の涙〜マーメイド・ティア〜
あたし、春山千晃《ハルヤマチアキ》は神田川高校普通科の一年生。
今年の春に入学したばかりだ。
この神田川高校には普通科ともう1つ、特殊科というものがある。
何が特殊なのか。
勉強がすごいとか身体能力がすごい!とかそういうものなのかなってあたしは思っていたが、実際はそれと真逆だった。
真逆というのは、つまりだ。
ー…ガッシャーン!
ー…オラァァァァ!
…まぁ、こういうことだ。
無法地帯、荒れに荒れまくる。
不良と呼ばれる彼らが集まった、それが特殊科。
そんな彼らに怯えて暮らす普通科の生徒たちはいつの間にか西棟に移動し、特殊科は強い奴を倒して上に上がる下剋上なるものをするために自然と東棟に集まり、気づけば西と東でぱっくり割れていた。
結構昔からのことらしく、あたしがこの学校に入る前からのことなので西棟にいることが当たり前になっていた。
荒れた校舎を見ながらそんなことを考えていると、職員室が見えてきた。
中に入ってまっちゃんの席にどかっとノートを置く。
「失礼しましたー」
「気をつけるんだぞー」
と知らない先生から声をかけられた。
「はーい!」と適当に返事をしておく。
さてさて、西棟に戻りますか!
そう思ってきた道を引き換え始めたが、はたと足が止まる。
いやいや、待てよ。
もうこれから先、東棟に足を踏み入れることはないかもしれない。
それなりに先生たちもここに入ることは咎めている。
ー…こんな機会もうないかもしれない。
そう思ったらうずうずしてしまうのだ。
「これは冒険の匂いがするぞ。」
どこぞの少年漫画のようなセリフを言って、前と後ろを確認して忍者の動きのように素早く壁に張り付く。
「千晃は3時間目をサボり、探検をするでござるよニンニン!」
自分でやっときながら少し恥ずかしく思った。
この時だよ!この時!今のあたしに言ってやりたい!!
ニンニン言ってる場合じゃないんだよ!
でも、そんなのは後の祭りだ