人魚の涙〜マーメイド・ティア〜
「やばいっ、かっこいい!」
今あたしは置かれている状況に非常に疲れている。
「慎さーん!こっち向いてぇー!」
呼びかけにピクリとも反応を示さないで
「蓮くーん!」
うぜぇと悪態を吐き
「波瑠くん可愛いっ、やば女の子みたい!」
可愛らしい顔を般若のように歪めれば
「奏太くん、すごい爽やか!」
営業スマイルを振りまくのもいて
「敦さーん!抱いてー!」
大変疲れる。
そんなのを御構い無しにズンズン歩くこいつらの神経は麻痺してるんじゃないだろうかとさえ思えてくる。
「あたし、あんた達のこと尊敬するわ。」
近くにあった椅子に腰をかけゲンナリするあたしはなぜこんなことになっているかというと神獣のみんなとショッピングモールに来たからである。
「ごめんね、千晃ちゃん。ゆっくり買い物できないよね」
決して敦先輩が悪いわけじゃないから謝らなくていいのに。
「いえ、大丈夫です。でもお買い物くらい1人で出来るからみんな帰ってもいいよ?こんな中歩くの大変でしょ?」
近寄ってきはしないもののある程度の距離を持ってずっと付いてくるギャラリーにどんどん眉間のシワが出来ていく慎や不機嫌になっていく蓮と波瑠。
若干1名のぞいてみんなも疲れてるようだ。
奏太だけは爽やかに微笑んでヒラヒラと軽く手を振るくらい余裕らしい。
「おい、チビブス。気にするくらいならさっさと買うもん買えよ!つか、なんでそんなに服持ってねぇんだよ!おかしいだろ!」
そんな半ギレされても困るんだが。
だってあたしに支給されたのは
「千晃さー、ストレッチジーンズ3枚にTシャツが3枚、下着が3枚しかないってどんな生活してんの?ビンボーなわけ?」
奏太が呆れた顔で失礼なことを言う。
「失敬な!別に洗濯すればそんだけで足りるじゃん。」
まぁ毎日洗濯回さないとだめだし梅雨の時期はそれなりに困ったけど。
「いい機会だからね、たくさん買っておくと便利だと思うよ」
紳士な敦先輩が微笑みながらいつの間に買ってきたのかお茶を差し出してくれた
「ありがとうございます。」
貰ったお茶を飲んでいると横からぶんどって蓮が勝手に飲み始め、あたしは気にしないけど波瑠がそれに間接キスだ!死ね!とか言って顔を真っ赤にして怒り出す。
そんな間に挟まれて揉みくちゃになっているといつの間にかどっか行ってたらしい慎がこっちに歩いてくるのが見えた
「慎、どっか行ってたの?気がつかなかった」
慎に話しかけたが頭をポンと撫でられただけでどこに行ってたかは答えない。
あたしの質問は無視かーい。
無視して何やら敦先輩と一言二言会話して今度はスマホ片手に敦先輩がどこかに向かって行った。
「…置いてかれた犬みたいな顔してんぞ。」
そういう蓮こそ。
「あんたこそなんでアホヅラなのよ。」
「お前は相当死にたいらしいな。」
そう言ってあたしの首をガッと締め始めた
こんな冗談言わないと蓮が消えそうでなんとなく怖かったから…
たまにこういう雰囲気を醸し出すんだよな、蓮って
首を絞められているあたしを救おうと波瑠が加わる
間に挟まれて苦しいんだがいつも助けてくれる敦先輩がいないので仕方なく奏太に助けを求めてみたが
「あ、今日新作ゲームの発売日じゃん~!やべっ、買ってくるわ。」
と人の買い物についてきたくせに自分の買い物をしに行ってしまった。
行くなら助けてから行ってくれよ
「く、くるしぃぃぃー」
もうそろそろ限界だ!
こいつ本気であたしを絞め殺そうとしてないか?
波瑠も頑張ってくれてるが余計に苦しくなっていくので呼吸が浅くなるのが分かる。
ちょ、ほんとくるしっ
堕ちそうになる寸前で
「蓮、波瑠。いい加減にしろ」
呆れた顔で慎がやっと止めに入ってくれた