人魚の涙〜マーメイド・ティア〜
「…ごめん、俺だ。少し席外すね」
着信する携帯の持ち主は立ち上がる。
「波瑠…?」
どうしてあんなに苦い顔をして立ち去ったのだろうか。
みんなの顔を見渡して見ても心配の色が滲んでいる
思わず波瑠を追いかけようとあたしも反射的に立ち上がると右側から手を掴まれる。
掴んだ人を見ると慎は無表情で目を伏せていた。
…どうして?
「千晃ちゃん、ご飯食べよ。」
まだ残っているご飯を食べるように進めてくれる敦先輩を見るとそっとしといてあげてと言われているようであたしも何も言えずに座り直した。
「…気にするな。」
そう言って慎はあたしの頭を撫でてくれた。
だけどやっぱり波瑠の苦しそうな顔が頭にチラついてしまう。
そんなあたしの思考を遮るように
「話したきゃいつか波瑠からお前に話すんじゃねぇの」
蓮は偉そうにでも真っ直ぐにあたしを見ていた。
なんとなくだけどその瞳にチカラが籠っていたから頷いてしまった。
そうだよね、きっといつか波瑠が話したくなったら話してくれるはずだよね。
それに無理やり聞いて波瑠を傷つける…ううん、あたしがこの居場所を失くすのはとても怖いから。
だから今はやっぱり何も聞かないし、聞けないよね。
そう思って波瑠が戻ってきてからもみんないつも通りに過ごした。