人魚の涙〜マーメイド・ティア〜



「千晃、こっちだ。」



そんなやりとりを見ていた慎があたしの腕を引いて女の方の更衣室に連れて行く。


その瞬間にチラッと視界の端に映ったのは虚ろげに海を見てる波瑠だった



…そういえばさっきあたしがあの2人に絡まれてたのに波瑠は参加してこなかったな。



いや、自意識過剰とかそういうんじゃなくていつもあたしの悪口を次から次へと言ってくる蓮と奏太から庇ってくれるのは波瑠だった。それも物凄い速さで。



だけど今日は来なかった。



昨日のフードコートでの電話以来、たまにだけど上の空の時がある。



きっと何かあったんだよね。
でも、それを聞くのはやっぱりまだダメな気がしたから何も言えないでいるんだけどこんな時自分が何も出来ない無力さがほんとにもどかしい。



いつもあの2人から庇ってくれる波瑠に何か1つでも力になれたらいいのに…。



「気にするな。」


「へ?」



今まで腕を引っ張られて歩いていたが急に解放されて止まられたので躓きそうになりながら慎を見上げた



「きっと大丈夫だ。あいつは強い。」



慎は柔らかい笑顔を浮かべて腕から離した手であたしの頭を撫でる。


きっとあたしの考えてることが顔に出てたのだろう


こうやって気持ちを汲み取って不安を取り除こうとしてくれる慎は優しい。



「うん。ありがとう、あたしは大丈夫だし波瑠のこと信じてるから」



いつか話してくれる日がくることも信じてる



「あぁ。気長に待っててやれ。」



慎の言葉に頷く。



「着替えてこい、ここで待ってる」



そういって更衣室のドアを開けてくれた



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