人魚の涙〜マーメイド・ティア〜



「慎?どうかした?なんか変なとこある?」



着替えが終わり外に出ると慎がこっちを見て微動だにしないので心配になってあたしから近寄ってみる



「ッ、これ着ろ」



慎が羽織っていた薄手のパーカーをあたしの肩にかける



「え、でもこれから海入るのに濡れちゃ悪いからいいよ」



かけてもらったパーカーに手をかけて返そうとするが慎が阻止する



「ダメだ。これ着て入れ。」



慎を見るとダメという強い意志が滲みすぎてて何も言えずわかったと言うしかなかった



「じゃあ、これ洗って返すね。」


「気にするな、でも絶対脱ぐな。」



何をそんなにこだわってるんだろうか。
慎はほんとに不思議ちゃんだ。



「はいはーい。」


「いい子だ。行くぞ」



ポンと頭を撫でてあたしの手を引いてみんなのいる場所へと歩き出した。


みんなのところに戻ると30人くらいの野郎どもが並んでて少しビビった



「あ、来たね、じゃあ紹介しようかな」



私たちの姿を確認すると敦先輩が集まっていた男たちに笑いかけた



「みんな、紹介するのが遅くなってごめんね。知ってると思うけどここにいるこの女の子をうちの、“神獣の寵姫”として迎い入れることになった春山千晃ちゃん。」



“神獣の寵姫”?



待て待て。


確か麻奈実に聞いた話からすると寵姫に選ばれた人は大体その族の総長の女で次の代替わりまではその人を何が何でもチーム一丸となって守っていかなきゃいけないとのこと。
しかもだ。一度決まったら覆すことができないルールらしい。



「千晃さん!よろしくっす!!」
「慎さんが認めた人なら誰も文句ないっすよ!」
「そうっすよ!幹部の皆さんも認めてる人っすから」



あれ意外とみんな受け入れてくれてる…?



…なんか心がほっこりした。



正直今日みんなに紹介するって言われた時、拒否られるんじゃないかって思ってた。


みんなと話したことなんてなかったし、倉庫にいつ行っても少し距離を取られてた。


だからみんながこんなにもあたしに笑いかけてくれることが嬉しかった。
絶対受け入れなれないと思ってたから。



でも



…いつまであたしはここに居られるかな

寵姫になるなんて思ってなくて返事したけど…まずかったかな。



ほっこりしたのと同時に罪悪感があたしを支配する。


そんなあたしに気付いてか、慎が繋いでいた手をギュッと握ってきた


見上げれば微かに微笑んで




「歓迎する。何があっても守る。」




あぁ、神様。今だけ許して。
欲張りなあたしに時間をください。



…どうか、どうか許して




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