人魚の涙〜マーメイド・ティア〜
「慎はどこにいるんですか?」
隣に座る敦先輩に尋ねると
「あぁ、慎ならあそこの岩場の裏で釣りしてると思うよ。行ってくれば?」
「一人でやってるんですか?」
「うん、慎は一人になりたがるからね。」
なぜか敦先輩は困ったように、そして寂しそうに笑った。
「…あたし行ってきますね。」
「うん、そうしてあげて。」
そういって立ち上がる。
岩場に向かって歩く途中にもたくさん遊びに誘われたが丁重にお断りした。
…ほんとに元気だなぁ
岩場を上りみんなを見渡す
太陽のまぶしさもあるがみんなそれぞれがいい笑顔で笑っててなんとなく敦先輩が眺めていたくなる気持ちも分かった
「千晃か?」
みんなを眺めていると後ろから慎の声が聞こえて振り返ると岩場と次の岩場の間に小さな砂浜があり、そこからこっちを見上げていた
「慎、何してんの。こんなとこで魚なんか釣れるの?」
浅瀬で釣りしても何も釣れないんじゃないかと思って聞くとやっぱりそうだったのか顔をそらされた。
とりあえず慎のそばまで行き腰をおろす
「ねぇ、みんなと遊ばないの?」
敦先輩にも聞いた質問を慎にも聞いてみる
「…遠慮するから」
「まった日本語が足りないんですけど」
そんな文句を言うあたしをチラッと横目で見てまた海をみて呟く
「…俺がいるとあいつらが気を遣う」
…なるほどね。
あたしがこんなこと言える立場じゃないのは分かってるけど言わずにはいられない、お節介かもしれないけど…
「…みんな慎がいても遠慮なんてしないと思うよ。みんな女のあたしに平気で海でジャーマン決めるようなやつばっかだから」
そういって思い出し笑いをすると慎は少し驚いたような顔をする
「…そうか」
でもまたいつもの無表情に戻る。
「みんなわかってると思うよ、下とか上とか関係なく仲良くなれるようにこの旅行があるってこと。」
あたしの言葉に何も返事は返さないがそれでも話続ける
「なのに慎が遠慮してどうするの」
「…俺がしてるのか」
「うん、あたしにはそう見えるけど?」
しばらく沈黙が続く
「…行く。」
慎のその言葉が無性に嬉しくて思わず笑顔になってしまう。
「…お前ってずるいな」
「はっ?なにそれ」
慎の言ってる意味が分からず眉をしかめる
「…ほら、行くぞ」
そんなあたしをよそに慎は釣り道具を片づけて歩き出した
「え、ちょっと待ってよ慎!」
あたしも慌てて追いかけた