人魚の涙〜マーメイド・ティア〜
やっぱり何かあったのだろうか…
でも敦先輩がわざわざあたしに嘘をつくってことはきっと踏み込んじゃいけないことなのかもしれない。…なんかまだみんなが遠いな
深入りしちゃいけないってわかってても一緒に入れる時間は大切にしたいと思うからこそ、みんなが困ってるなら助けたい
そんなこと考えて箸が止まってたからなのか
「おい、チビブス!!うまい飯が冷めんだろーが!早く食わねぇと食っちまうぞ!」
隣に座っている蓮があたしの頭を無理やり自分の方に向ける
それがあまりにも勢いありすぎて
「いったぁ!あんたね、ほんと急すぎるから!絶対今ので首の骨折れたわ!」
「へっ!お前の首がそんなやわなわけねーだろ!…なぁ、お前いつも首につけてるネックレス、今はしてねーんだな」
蓮の言葉にハッとして首元に手を伸ばして確認する
っ、嘘、ない!!!
「え…やだ、ない…」
あれは命に代えても大切にしてたあたしの唯一の宝物なのに…あたしどこやったんだろう…
「っ、探してくる!ごめん、先食べて戻っていいから!」
「ちょ、千晃ちゃん!?」
先輩が呼び掛けてるのにも気づかずに一目散に走りだした
桜の間を飛び出してから、来た道を戻りながらその辺に落ちてないか確認する
あたしの記憶だと今日外した覚えがない
「どこやったんだろう…旅館内に落ちてればいいんだけど…」
とりあえず部屋はいつでも見れるから後回しにしよう
時間がきたら女湯と男湯が入れ替わってしまうお風呂場から見に行くのが先決だと思って急ぐ
そのせいか曲がり角から急に出てきた人影に対応できず思いっきりぶつかった
「っ!ごめんなさい!…あれ?」
慌てて謝ってぶつかった相手を見るとそれは
「…波瑠、いつもカラコンだったの?」
「…見んなっ!」
右目がいつもの青い瞳で左目は黒だった
すごく綺麗なオッドアイなのにそれを見られたのがよっぽど嫌だったのか顔を下に向ける波瑠
肩を震わせ、悲しそうに、まるで苦しみが飲み込んでしまいそうな消えかかりそうな声で
「…こんな気味の悪い眼、千晃にだけは見られたくなかったッ」
それだけ言うとあたしに背を向けて走り出した
なんだか波瑠が消えちゃいそうで怖くなったあたしは追いかけた
ネックレスの存在は一瞬で忘れていた