人魚の涙〜マーメイド・ティア〜



ー…コンコン



やっと母さんに会える。そう思ってドアをノックした手はなぜか震えていてその手を見て俺は今初めて自分が緊張をしていることを知った。



「はぁい?だぁれ?」



でも母さんの声を聴いた瞬間緊張していたのが嘘かのように勢いよくドアをあけた


そして母さんと目があった瞬間だった
綺麗な顔が般若のように歪んだ



「なんであんたがここにくんのよ!!!」



母さんは俺の顔を見るなり手元にあった枕を思いっきり投げつけて怒鳴り始めた。もうそれを止めることできなかった



「私を捨てたあの人にそっくりな瞳で、髪の色で私の前に現れるんじゃないよ!あんたなんか産まなきゃよかった!!あんたを身籠ったせいであの人は私の前からいなくなった!!…あんたさえいなければ、できなければ…ずっと一緒にいられたのに…消えて!!死んでよ!!!」



今までで一番キツイ罵倒だった。


そこから先は記憶が曖昧であんまり覚えてないけど
異変に気付いた看護師さんが飛び込んできて母さんを抑えて山中先生もいて



「波瑠くん!!!」



先生に呼び止められた声にも耳を傾けずに俺は部屋を後にした


放心状態で俺は気づけば家にいて玄関に立っていた


そんな状況を気づかせてくれたのは



「おい、クソガキ。邪魔だどけ。」



その言葉とともに襲った衝撃だった


床に這いつくばって顔を上げるとあの男がいた。



「チッ、てめぇの母ちゃんのせいで俺の身まであぶねぇだろうが。もっとちゃんと使いこなせよ」



意味のわからないセリフを吐かれまた腹に蹴りを入れられる


声にならない痛みに必死に耐える。
だけどこの男は俺にさらに容赦ない言葉と暴力を与える



「いいこと教えてやるよ。お前の母ちゃんなぁ、風俗で働いてんだよ。お前はそこに来てたフランス人の客がお前の父ちゃんなんだってよ。でもその男はお前が母ちゃんのお腹の中に身籠ったことを知った途端姿をくらまして消えちまったんだとよ。はははっ!お前、どこ行ってもいらないやつなんだなぁ、かわいそうに…でも安心しろ。お前の母ちゃんに薬渡したの俺なんだよ。どうだ?破滅へと導いてやった俺への感謝は?ん?」



…もう俺の心はすでに壊れていた



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