人魚の涙〜マーメイド・ティア〜
波瑠は満足そうにお腹をさすって
「ほんとに美味しかった!千晃は料理の天才だな!」
「波瑠ったらそんなに褒めても何も出ないからね!」
「ほんとだって!心の底から言ってるの!!」
「ありがとう。」
美味しいと誰かに喜んでもらうのは久しぶりでやっぱり嬉しいものだ。
定期的にやっぱり作りに行ってみようかな。
自分が育ってきた場所を思い出す。まだ幼い妹や弟たちのこと。今日は何かと思い出す、なんでだろう。ここ最近は全く思い出すことなく日々を過ごしていたのに。
だからといって、忘れたわけでもないけど。
決して施設の暮らしが嫌だったわけじゃない。
…あたしにとってはどれも大切な思い出
ふと彼の顔が浮かぶ。今彼はどこで何をしているんだろうか。あたしたちはまた会うことができるのだろうか。
そんなことを思っていると黒い影が横を通った
「蓮?どこ行くの?もう帰るの?」
あたしの横を通って玄関で靴を履いてる蓮に声をかける
「なんだ?蓮どっか行くのかー?」
トイレから出てきた波瑠も聞くってことは帰るっていう選択肢はない
珍しく静かな蓮にもう一度念押しで聞く
「蓮、どこ行くの?」
ちゃんとまっすぐ瞳を見て。
だけど蓮はすぐに晒して素っ気なく答えた
「…ちょっと出てくるだけだ。」
ねぇ、気付いてる?今のあんた、相当冷たい顔してるんだよ。
今、蓮が出て行ったらなんとなく二度と帰ってこないような気がして思わず腕を掴んだ。
「んだよ、離せっ「アイス買ってきて。」
蓮の言葉を遮って言う。
ここにちゃんと帰ってくるための小さな約束を。
「アイス、買ってくるならこの手離してあげるけど?」
ニヤッと笑ってさらに力を込めて握る。
ねぇ、絶対戻ってくるよね。
そう信じてここで、波瑠と2人であんたの帰り待ってるからね。
「チッ…うるせぇなぁ、買ってこりゃいいんだろ早く離せチビブス。」
そう言いながら空いてるもう一方の腕であたしの頭を掴んで引き剥がして頭を掴んでたその手が離れる
でも、その瞬間ちょっとだけ、クシャッと頭を撫でたのをあたしは見逃さなかったよ。ねぇ、蓮。
「約束、だよ?」
「あぁ、しゃーねぇーから俺様が買ってきてやるよ。溶けてても文句言うなよ。」
そういっていつもの蓮でこの部屋を出て行った。