人魚の涙〜マーメイド・ティア〜



「蓮、遅いな…」


「そうだね。」


「外でたばこでも吸ってんのかな?」


「どうだろう?」


「まぁ、でももうすぐ帰ってくるよな!」


「ねぇ、波瑠?この会話三回目。そんなに心配なら見てこようか?」


「べ、別にそんなんじゃないしっ!!」



あたしと波瑠は蓮を見送った後、他愛もない会話をしながら待っていたがさすがにもうかれこれ1時間も帰ってこない蓮が心配になったのか沈黙になっては、蓮のことを話す波瑠。


さすがに波瑠も出ていく時の蓮の異様な空気感を察知しているみたいだ


まぁ、アイス買ってくるって約束したから絶対に戻っては来るんだろうけど確かに遅すぎる。



「よし、波瑠!こんな時間までふらふら夜遊びしてるかもしれない子は成敗しに行こう!」


「成敗?」


「そう、成敗しにね!」



ニコッと微笑むと、波瑠の顔からまるで花が飛ぶような笑顔になっていく。
それが嬉しくてこっちも笑顔になってくる。



「よし。じゃあ準備していこう!」



夏とはいえ外はまだ冷える
薄手のパーカーを2人で羽織って家を出る


でも何だろうか、この嫌な胸騒ぎは。


成敗しに行こうと言って出てきたはいいものの、多分コンビニにいるとは思えない



「ねぇ、蓮コンビニにいると思うか?」


「んー。いてほしいけどね。」



お互いに同じことを思っているのか、ハハッと軽く笑いながら歩いていく


コンビニが見えてきて外から覗く



「…いないね。」


「そうだね…。あのバカ、お遣い一つもできないとは思わなかったわ。」


「会ったら俺がお遣いの仕方教えてやらなきゃな!」


「確かに波瑠はお遣い頼んだら優秀すぎるもんね」



コンビニから視線を波瑠に移すとちょうど波瑠もこちらを見るタイミングだった。



「…どうする?」



お互いに話をしてないと今にも不安で押しつぶされそうで怖かった。


こんなに近いコンビニなのにいないっていうのが不安を煽るのかそれとも出ていく前の表情が心に残っているのかはわからない。



「ここよりさらに行ったところに公園があるからもしかしたらそこにいるのかもね。」


「じゃあ、俺見てくるから千晃は先に部屋に戻る?」


「ううん、一緒に行くよ。」



コテンと首をかしげて聞いてきた波瑠はそっかと少しだけ笑ってあたしの手を繋いで歩き出した



「蓮のことだから俺の好きなアイスがねぇ!!とか言って違うコンビニはしごしてるのかもな!」


「あー、それはあり得るかも。案外こだわり強いもんねー。」


「アイスがないならプリンでも買えばいいのにな!」


「いや、それは波瑠だけじゃない?あ、なんならバナナオーレ買ってくればいいのにね。毎日飲んでるんだし。」


「いや、蓮は飽きっぽいからわざわざ買わないんじゃない?」


「あー確かに言えてるわ。ゲームとかも全部コンプリートした途端にやらなくなるもんね。」


「だろっ!ほんと飽きっぽいしがさつだし!」



ー…ガンッ!!!



波留の話に相槌を打とうとしたけどそれはできなかった。


あたしの手を包んで不安を和らげていてくれた温かさはスルリと離れていく。


あたしたちは気が付かなかった。心の中にある不安を消したくて背後から迫ってきていたそれに。



「ち、あき…逃げろ、」



膝を地面につけて後頭部を抑えている波瑠の姿、そして首筋を生々しく伝う赤い液体


その瞬間頭が回り始めた



「波瑠っ!!!」



波瑠の横に慌ててしゃがみ込む


後ろを向けばそこには見知らぬ男たちにあたしたちは囲まれていた



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