人魚の涙〜マーメイド・ティア〜



「ヒュー!やぁりぃ!神獣の姫さんミッケ!」


「いやぁ、こんなに早く見つかるなんてラッキーだったね。」



見知らぬ男たちは波瑠をいきなり、しかも後ろから殴ってきておいて何事もなかったかのように話している



「波瑠っ、ねぇ、大丈夫っ!?」



大丈夫なわけがないのに、血が流れているのに



「だ、じょうぶ、いい?千晃。俺がこれから、いうことに、大人しく従って。」



笑ってこっちを波瑠が見てくるからなぜか泣きそうになる



「いますぐ、ここから、逃げてっ」


「やだよ、波瑠を置いていけないよっ!」


「だめだ、千晃が捕まるのだけは避けたいんだ。お願いだから俺のゆーこと聞いてっ」



波瑠の目はだんだん力を取り戻す



「あのさぁー!今の状況わかってんの?親衛隊隊長さんよぉ。」



その問いかけに波瑠は立ち上がり相手を挑発する



「はぁ?お前らごときに俺が頭殴られたからってやられるわけがないじゃん。しかも神獣の大事なものに手出そうなんてどこのどいつなわけ?」



たくさん喋っているけどその間にも血は流れてる。
そして自分のことはどうでもいいかのように小声であたしに指示をする



「千晃、いい?俺がこいつらを足止めしてる間に大通りまで走って。そんで走ってる途中で誰かに連絡して迎えに来てもらって。」


「でも、そしたら波瑠は!?」


「大丈夫、こう見えても強いんだよ。俺のことはどうとでもなるから。」



そういってあたしの背中を無理やり押す


それは敵にもわかったことで



「いや、逃がさねぇよ。」



あたしめがけて伸びてきた手を一瞬で波瑠が薙ぎ払う



「行って!!!」



その言葉を聞いた瞬間走り出した。


ごめん、波瑠!すぐ戻ってくるから!


少しだけ耐えて。


波瑠に背を向けて走り出す。


ポケットからケータイを取り出して慎にかける



「お願い…お願いだから、早く出て…」



波瑠をあの場に残してきたこと。間違いだったのかもしれない。でも、あそこにあたしがいても守りながらきっと戦わなきゃいけなくなる。


足手まといになるくらいだったらいない方がいい


それでも波瑠の防御を抜けてきた数人は追いかけてきている


でもこれはこれで波瑠の負担が減るならいいのかもしれない



「どうした。」



耳に当ててたケータイからぶっきら棒な声が聞こえる



「ハァ、慎!は、波瑠が!」



あたしの異変に気付いたのか声色が変わる



「どうした、何があった今どこにいる」



次々に質問が飛んでくる。


とりあえず波瑠のことを話すのが先だ



「波瑠が!頭殴られて血が出てる、あたしの家の近くのコンビニから公園の道で急に襲ってきた人たちと戦ってる」


「…わかった、千晃は無事なんだな?」


「あたしを守るために波瑠が囮になってくれてる!波瑠を助けて!」



それだけいうと慎は電話越しで敦先輩を呼ぶ声や指示を出している



「千晃、お前はそのまま走れ。大通りに向かってるんだろ?車をそこに向かわせてる、いつもの車だ見つけたら飛び乗れ。」


「わかっ、キャッ!!!」



返事をして切るつもりが誰かに横から引っ張られたことによってできなかった
手から携帯が落ちていく


その落ちていく携帯越しに慎の声が聞こえる



「おいっ!千晃!返事しろ、どうした。おい早く迎え!」



最後の方は下の子たちに向けてだろうか


でもとりあえず来てくれるみたいだから波瑠の方は大丈夫だろう


急に横から引っ張られてそのまま走らされてるわけだけど。



「こっちだっ。」



そういってあたしの手を引いて走ってるのは紛れもなく蓮だった。


なのに、引っ張ってくれる手はいつもと違ってすごく冷たかった



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