最後のキスが忘れられなくて
真夜中の午前1時にスマホの着信音で起こされた。
周一からだ。
「もしもし?今何時だと思ってるの?」
「話がある。」
「明日じゃダメなの?」
「今だ。玄関先にいる。」
ピッと通話が切れた。
「い、今?」
私は回らない頭でダウンコートを羽織った。
階段を忍び足でそっと下りて玄関ドアから外へ出た。
吐く息が真っ白だ。
4月とはいえ都会もまだ寒い。
深夜で辺りは静まり返っていた。
街灯の明かりの下に周一がいた。
飲んだ帰り際にそのままここに来たのだろうか。
「午前様?」
「理由を教えてほしい。」
「理由?」
「旅立つ理由だ。」
「ああ、私の人生設計なの。」
「人生設計?カナダが?」
「どこでもいいの。また帰ってくるし、また働くし。」
「良菜。」
「ごめんなさい。今まで黙っていて。話しづらかったし。」
「俺は別に反対しないし、怒ってもいない。」
「・・・・・」
私は周一の言葉を待った。
「待ってもいない。帰りを待つほど俺はできた人間じゃない。それを言いたかった。」
私はハッとした。
終わったと思った。
周一の気持ちは私の人生設計の中にこれっぽっちも含まれていない現実を知った。
ゼロだ。
まるっきり考えに及ばなかった。
彼を傷つけた。
それを今思い知らされた。
「ごめんなさい。私もっと考えるべきだった。」
「良菜。そんなに深刻なことじゃない。俺たちはまだ若い。何でもやれる。」
「周一。」
「俺も良菜を見習いたいくらいだ。うらやましいとさえ思う。」
周一は私を抱き寄せた。
街灯の真下からそれた暗がりで私にキスをした。
「良菜、バイバイ。」
そっと離れた唇から周一は静かにつぶやいた。
いつものような強引さがなく
甘くてしっとりとした想いが込められていて
私のすべてを沸騰させて
もっと欲しがらせるような
ぼおっとなりそうな
心の底から好きという感情を優しく揺さぶられる
そんな温かさがあった。
初めて感じられる彼の想いの深さがそのキスにあった。
「今度いつ、こんなキスができるかだ。」
「周一。」
「俺には何も期待するなよ。」
再び周一らしからぬ優しくて甘くてとろけるようなキスに
私は夢中になって応えた。
「そうだな、土産はメイプルシロップでいいよ。極上の。」
「周一、キスありがとう。」
「なに、忘れられないって?」
「んもう、周一のバカ。」
「静かに。」
周一は私をふんわり抱きなおして
首筋にそっとキスしてくれた。
「俺たち、元恋人になったな。」
その言葉に私は胸がキュンとなった。
「ちょっぴり寂しい。」
そう言う私のあごをつかんで目を合わせた。
「ちょっぴりだって?そりゃ心外だな。」
こっそりと笑う私を周一はもう一度しっかりと抱きしめた。
「良菜。気をつけて。」
「周一。ありがとう。大好き。」
「おいおい、まだまだ続くエンドレスか?こんなとこで風邪ひくぞ。」
「だって、周一がこんな時間に呼び出すからよ。」
二人で声をひそめて笑い合った。
~ 完 ~
最後までお読みいただきましてありがとうございます。
お楽しみいただけましたでしょうか。
次作『続・最後のキスが忘れられなくて』も公開中です。
しっとりとした大人の恋物語を展開できたらと思っております。
これからもご愛読を賜りますようお願い申し上げます。
~ 北原 留里留 ~
周一からだ。
「もしもし?今何時だと思ってるの?」
「話がある。」
「明日じゃダメなの?」
「今だ。玄関先にいる。」
ピッと通話が切れた。
「い、今?」
私は回らない頭でダウンコートを羽織った。
階段を忍び足でそっと下りて玄関ドアから外へ出た。
吐く息が真っ白だ。
4月とはいえ都会もまだ寒い。
深夜で辺りは静まり返っていた。
街灯の明かりの下に周一がいた。
飲んだ帰り際にそのままここに来たのだろうか。
「午前様?」
「理由を教えてほしい。」
「理由?」
「旅立つ理由だ。」
「ああ、私の人生設計なの。」
「人生設計?カナダが?」
「どこでもいいの。また帰ってくるし、また働くし。」
「良菜。」
「ごめんなさい。今まで黙っていて。話しづらかったし。」
「俺は別に反対しないし、怒ってもいない。」
「・・・・・」
私は周一の言葉を待った。
「待ってもいない。帰りを待つほど俺はできた人間じゃない。それを言いたかった。」
私はハッとした。
終わったと思った。
周一の気持ちは私の人生設計の中にこれっぽっちも含まれていない現実を知った。
ゼロだ。
まるっきり考えに及ばなかった。
彼を傷つけた。
それを今思い知らされた。
「ごめんなさい。私もっと考えるべきだった。」
「良菜。そんなに深刻なことじゃない。俺たちはまだ若い。何でもやれる。」
「周一。」
「俺も良菜を見習いたいくらいだ。うらやましいとさえ思う。」
周一は私を抱き寄せた。
街灯の真下からそれた暗がりで私にキスをした。
「良菜、バイバイ。」
そっと離れた唇から周一は静かにつぶやいた。
いつものような強引さがなく
甘くてしっとりとした想いが込められていて
私のすべてを沸騰させて
もっと欲しがらせるような
ぼおっとなりそうな
心の底から好きという感情を優しく揺さぶられる
そんな温かさがあった。
初めて感じられる彼の想いの深さがそのキスにあった。
「今度いつ、こんなキスができるかだ。」
「周一。」
「俺には何も期待するなよ。」
再び周一らしからぬ優しくて甘くてとろけるようなキスに
私は夢中になって応えた。
「そうだな、土産はメイプルシロップでいいよ。極上の。」
「周一、キスありがとう。」
「なに、忘れられないって?」
「んもう、周一のバカ。」
「静かに。」
周一は私をふんわり抱きなおして
首筋にそっとキスしてくれた。
「俺たち、元恋人になったな。」
その言葉に私は胸がキュンとなった。
「ちょっぴり寂しい。」
そう言う私のあごをつかんで目を合わせた。
「ちょっぴりだって?そりゃ心外だな。」
こっそりと笑う私を周一はもう一度しっかりと抱きしめた。
「良菜。気をつけて。」
「周一。ありがとう。大好き。」
「おいおい、まだまだ続くエンドレスか?こんなとこで風邪ひくぞ。」
「だって、周一がこんな時間に呼び出すからよ。」
二人で声をひそめて笑い合った。
~ 完 ~
最後までお読みいただきましてありがとうございます。
お楽しみいただけましたでしょうか。
次作『続・最後のキスが忘れられなくて』も公開中です。
しっとりとした大人の恋物語を展開できたらと思っております。
これからもご愛読を賜りますようお願い申し上げます。
~ 北原 留里留 ~