きらきら星に魅せられて
「はい、じゃあ次は野山さん」

もしや先生、比べやすくするためにわざと2人の順番を前後にした.....?

となると惺くんの次は私か星羅ちゃんだな。

どうしよう。

曲決めるの忘れてた。

古典派はモーツァルトでいいとして。

ロマン派はショパンにしたいんだよな.....。

よし、決めた。


惺くんが弾き始めた曲はベートーヴェン作曲、通称“悲愴”。

惺くんの得意な分野からはかなりかけ離れている。

いや、離れているようで離れていないのかもしれない。

あの惺くんの優しい音色にもっと憂いと哀愁と暗さを持たすことができれば。


闇のどん底に落とされるような最初の和音。

そこから一気にピアノに抑える。

まずはその差のつけ方に惹き付けられた。

序奏の次は激しくなっていく第1主題だが.....

何だか物足りなく聴こえる。

切迫感が感じられないからかな。

もっと前に行きたいと聴いている人が感じるような演奏。

最近、惺くんの演奏が上手く聴こえないのは惺くんの得意な分野が狭まりすぎているから?

悲愴は惺くんの得意なことを応用すれば、きっと上手く弾けると思ってたけど、それは一部分だけのことだと気づく。

そう考えると絶対に惺くんが得意としているのは長調の曲だ。

ならどうして.....?


第2楽章はよく惺くんの良さが表れるような曲だ。

人の心を満たす私の大好きな惺くんの演奏。

ソナタに於ける第2楽章はゆっくりな曲が多い。

だからきっと惺くんにとって得意とする分野なんだろう。


第3楽章は.....

なんだか冴えなく聴こえた。

だって惺くんの得意分野じゃないし。


もしかして惺くんはわざと苦手を克服するために短調の曲ばかりをやっている.....?

努力家な惺くん。

今のテストよりも長期的に見て、苦手な曲で舞台慣れをしようとしてるんだ.....。
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