きらきら星に魅せられて
そんな私の考えごとは重く、辛い絶望に打ちひしがれるような音でかき消された。

誰もがハッと息を飲み、その音を出した張本人を見つめる。

そう、星羅ちゃんを。

その曲は“悲愴”。

どうしてわざわざ惺くんと同じ曲を.....?

でも。

惺くんの演奏とは何から何まで違う。

この曲に真っ向から勝負を挑んでいるような星羅ちゃんの演奏。

私たちの心をつかんで離さない。

負の感情を全て音にぶつける。

ベートーヴェンの耳が聞こえない苦しみが、悲痛な叫びが私たちの心を揺さぶるんだ。

惺くんの停滞したような音楽とは違う。

迫ってくる。どんどんこちらに迫ってくる。

瞬きさえさせることはしない。


星羅ちゃん。あなたは.....

実力の差をわざと見せつけ、自分の凄さを誇示しているの?

いいえ、違うよね。

そうやって自分の性格の悪さを人に見せつけるふりをして、惺くんが向かう先を示してあげる。

だってあなたは優しい人だから.....。


第2楽章

この曲もまた全然惺くんとは違った。

星羅ちゃんの演奏は.....

雑だった。

メロディーが美しく浮き出てこない。

考えてみれば、星羅ちゃんはいつも得意な曲ばかり弾いていた。

だからこそ自信に満ち溢れた演奏ができていたんだ.....。


そうか。

私たちはそれぞれ苦手な部分と得意な部分がはっきりしている。

なら早く苦手な部分を直せた人がこれから先に有利ということになる。

私が劣っているのは表現力。

惺くんみたいに歌い上げられないし、星羅ちゃんみたいに迫力を出せない。

ただ音が綺麗で指が回るっていうだけ。

それだけ.....?

自分の得意なことを考えてみるとふと不安になる。

音が綺麗でテクニックがあるだけの人が果たして将来良いピアニストになれるのか.....と。

私のいいところは.....なに?

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