きらきら星に魅せられて
だめだ。

今は一世一代の勝負前。

こんなことに気をとられてる場合じゃない。

まだプログラムの確認もしていなかった。

私の順番は.....

18番か。

意外と早い。

そろそろ着替えに行かないと。


「森本紗夜よ」

「あぁ、日本で1、2を争う強者」

「世界に通用するのか楽しみね」

「ふふっ」

いちいち自分の噂に耳を傾けていたらキリがない。

あとは本番で本気を出すのみ。

まだ予選。

ここで落ちるわけにはいかない。


「あら、紗夜。遅かったじゃないの」

「星羅ちゃん!何番?」

「プログラムも確認してないの?16番よ」

「えへへ.....。自分の番号しか見てなかった」

「でもちょうどいいタイミングで来たわね。次が噂の中国人、チェン・シーハオよ。まずはお手並み拝見といったところね」

舞台袖に取り付けられたモニターを食い入るように2人で見つめた。


このコンクールの予選の課題は

バロック、古典、ロマン、近現代の中からそれぞれ1曲ずつ3曲を選び、20分以内で演奏すること。

チェン・シーハオが弾いた曲の中で1番驚愕したのはラフマニノフ作曲「楽興の時4番」。

重さを感じさせながらも目に見えないような速さで駆け回る指。

人間技を超越してるとしか思えなかった。

「.....」

隣の星羅ちゃんも唇を噛んで悔しさが滲み出ている。

星羅ちゃんのその反応はあまり見たことがない。

誰に対しても余裕な態度を見せていたから。

ライバルとして認めてもらった私は星羅ちゃんのお眼鏡にかなったらしい。

でもチェン・シーハオは違った。

星羅ちゃんがライバルとして匹敵しないほどの実力の持ち主。

モニターの前で揃ってポカンとしていた。

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