きらきら星に魅せられて
「真城さん?あ、いたいた。出番です。準備してください」

「わかったわ。今行きます」

星羅ちゃんが行ってしまった。

もう次の次は私の出番だということ。

心の準備ができていない。

舞台に出るのが嫌で嫌でたまらない。

こんなこと初めてだ。

人殺しの私がこんなところでピアノなんて弾いてちゃだめなのに。

まだ先生は生きてるけど、私が人殺しも同然なのはわかっている。

.....そろそろ行かないと。

星羅ちゃんが弾いているラフマニノフ作曲「鐘」の重い音が私の不安を更に掻き立てる。

先生は私のことを恨んでいるかもしれない.....。

そんな考えが頭を過ぎったのは久しぶりのことだった。

頭にあるのはお兄ちゃんの言葉だけ。

私は.....私はどうすればいいの?


「森本さん。出番です」

「.....はい」

今日、弾く予定の曲は

バッハ作曲「平均律クラヴィーア曲集第一巻より第1番」

モーツァルト作曲「ピアノソナタ第18番 op.576」

ショパン作曲「練習曲10-5」

バッハの平均律とショパンの黒鍵はあの日、先生を失った日のコンクールと同じ曲。

モーツァルトのピアノソナタはこの間の実技テストで弾いた曲。

この3曲で勝負することに意味があると思ったからだ。


満席の客席にお辞儀をし、鍵盤に向かう。

そして因縁のあの曲を.....

弾き始めた。


だめだ、集中できない。

頭に浮かぶのは、先生の周りに広がる血溜まりとお兄ちゃんがニヤリと笑う顔、そして“人殺し”という言葉。

この曲を弾いたあの日、先生は.....先生は.....っ!

「♪〜〜〜っ!」

.....もう限界。

たまらず、舞台から逃げ出してしまった。

とにかく遠くへ遠くへと。

< 149 / 240 >

この作品をシェア

pagetop