夏樹と空の恋物語
着替えを済ませて空がリビングに行くと、暖かいお味噌汁とご飯、そして卵焼き、ウィンナーが並んでいた。
初めての朝食に、空は驚いてしばらく見つめていた。
「冷蔵庫の中、勝手に使ってごめんね。後から買いに行こう、食材、使っちゃったから」
「いえ…大丈夫です。…いつも、使わないで捨ててしまうものばかりので…」
「それはもったいないよ。僕、毎日作ってもいいよ。空さんが、ちゃんと食べてくれるなら」
「…はい…」
手を合わせて朝食を食べ始めると、空は嬉しそうに目を細めた。
そんな空を見て、夏樹は喜びを感じていた。
夏樹と空は同僚。
宗田ホールディングに勤務する2人は上司と部下の間柄になる。
上司と部下と言っても、夏樹は副社長で空は営業部の社員で、あまり直接的な関わりがない2人である。
今から半年前。
季節は桜が舞い散る4月。
新入社員として、空が宗田ホールディングに入社してきた。
大学を卒業して別の企業で働いていた空だが、宗田ホールディングに転職してきた。
営業部に配属された空は、あまり喋る事がなく、とても地味で周りとは距離を置いている存在だった。
いつも1人で居ることが多く、お昼ご飯も1人で食べていることが多い空。
服もグレーのブラウスに紺色のスカートやスラックスで、髪もショートボブであまりはっきりと顔を見せようとしない空。
そんな空を見かけた夏樹は、何故か判らないが胸がキュンとなり、ずっと気になっていた。