夏樹と空の恋物語

 定時になり。

 空は今日は早く帰って休もうと思っていた。


 ちょっと青い顔をして、空はエレベーターに乗り込んだ。



 営業部は8階にあるため、1階までも距離はちょっとある。


 途中エレベーターが止まった。


 5階で止まったエレベータの扉が開いて乗ってきたのは…。

 なんと! 忍だった。


 かっちりとしたスーツを着ている忍は、夏樹と似たところがる。


 空はなんとなく顔を合わせたくないと思い、俯いたまま黙っていた。



「藤野山さん? 」

 急に声をかけられて、空はびくっとした。


「そうだよね? 」


 忍が傍に近づいてくると、空はきゅっと肩を竦めた。


「やっと会えたね。ずっと、藤野山さんに会いたかったんだよ」


 ポーンと音が鳴った。

 エレベーターが1階に着いた。


「藤野山さん」

 と、忍が声をかけたとき、エレベーターの扉が開いた。


 空は勢いよく走ってエレベーターを降りた。


「あ…藤野山さん? 」

 
 まるで逃げるように去ってゆく空に、忍は驚いてきょんとなった。





 忍がエレベータを下りて歩い来ると。


 崎山が昼間の女子社員達と歩いていた。


「そうよね。あんな暗い子が、副社長となんて付き合っているわけないわよ」

「そうそう、入社してきた時から根暗で気味悪かったものね」


「あんまり、そんな言い方よくないかもよ」

 崎山が言った。

「え? でも本当の事じゃない」

「そうよ、崎山さんのほうがとってもお似合いだもの」

「社長も認めているって言ったら、藤野山さん、なんだか真っ青な顔していたわね」


 女子社員達と、空の悪口を言いながら笑っている崎山。



 離れた位置で聞いていた忍は、空が逃げるように去って行った原因が分かった。


「誰が認めているって言ったんだ? やれやれ」

 忍は呆れてため息をついた。


 
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