鬼の目にも慕情

１．新婚生活

《由乃》

久しぶりに、コーヒーを2杯淹れる。
香ばしいコーヒー豆の香りがほのかに漂う平日の朝。
「今日はいつもよりゆっくりなんだね」
「あぁ。昨日までの仕事がようやくひと段落したからな。でも明日から新人が配属されてくるから、また忙しくなりそうだ」
新聞に目を通しながら、朝食のパンをかじっている翔太さん。
その横に、角砂糖を3つ入れて甘めに仕上がったコーヒーを置く。

ここ3か月ほど、新人の研修とかで会社に寝泊まりすることも多かった。
こうしてゆっくり朝の時間を過ごせるのも、すごく久しぶり。
結婚して半年が経ったというのに、まだこの生活に新鮮さを感じているところ。こういう時間って、すごく大事なんだな。
「相変わらず忙しいね」
「出来るだけ早く帰ってこようとは思ってるんだけどな。なかなか仕事がはかどらなくて。悪いな」
「遅くまで起きてるのも大変なんだよ、って、最近は寝ちゃってるけど」
「そんな奥さんを寝室まで運ぶのも、なかなかに幸せを感じられる瞬間だよ」
「そんなこと…」
言われると照れるでしょ。
こういうことを恥ずかしげもなく言ってくるんだから、まったく。