鬼の目にも慕情
不審者を確認するときのポイント。
眼鏡や帽子など、顔を隠すものを身に付けている。
あとは…、何があったっけ?あぁ、あれだな。不審者っぽい動きをしてる、とか。
それにしても結構年配の参加者が多いんだな。まあ、こういう講演だったら、若い人はなかなか来ないか。
俺も、もしあの会場で話聞けって言われたら、開始数秒で夢の中にダイブできる自信がある。
「すいません、お手洗いはどちらでしょうか?」
お手洗い…。
今そんなこと聞かれても困るんだけどな。
「このまま真っすぐ行って、右に曲がったところにありますよ」
「あら、ありがとう」
うん、偉い。
例え誰にも褒められなくても、俺は俺を褒め称えるよ。
それからは、特に何も起こらない。
今日の俺の成果は、ご婦人に道案内したってくらいかな。
何もないということは、事件が起こらなかったってことで良いことなんだろうけど、やっぱ出鼻を挫かれた感は否めない。